両方の世界にとっての最良

音楽教育でコンピュータ技術を使用することへの折衷主義的アプローチ
ロビン スティブンス

兵庫教育大学学校教育学部11期生 藤本真規子 訳 1993年8月


 コンピュータ技術によって、従来の学校における創造的音楽作りと同じく音楽の授業や学習において教師や学生のために新しい世界が開かれようとしている。「コンピュータ技術」という語はマイクロプロセッサーに基づく広範な設備だけでなく、そのアプリケーションをも音楽教育に当てはめることを含んでいる。コンピュータに基づくハードウェアは、一般的に用いられているマイクロコンピュータ(専用の音楽用周辺機器のあるなしを問わない)から音楽コンピュータシステムに専用のデジタル・シンセサイザーのようなコンピュータ楽器(CMIs)やデジタル・サンプラーや「ドラムマシーン」にまで及ぶ。音楽教育におけるコンピュータ技術のアプリケーションはソフトウエアによってCAI(Computer-Assisted instruction) やCAL(Computer-Aided Learning)として集団でマイクロコンピュータを使用することか ら個人の学習や創造の道具としてマイクロコンピュータやその他のマイクロコンピュータに基づく装置を使用することまで含んでいる。

  教育における技術的最前線であった二国、すなわちアメリカ合衆国と英国では現代音楽教育者が音楽教育にコンピュータを利用する方法をめぐって分極化が起こっている。一般にアメリカでは音楽教育におけるコンピュータ技術は、音楽理論のようなエリアと耳のトレーニングのためのCAIとして用いられてきた。一方、現在英国の学校音楽におけるコンピュータ技術は、創造的音楽作り(作曲と演奏表現の実現)のための道具としてもっぱら用いられている。これら二国に対立する極が生じている傾向があることへの理由はあるが、この論文では、音楽教育でコンピュータ技術を使用する上で折衷主義的立場をいっそう強く論ずることをねらいとしている。そして、それは特定の教育スタイルや偶然はやっている音楽カリキュラムへの特定のアプローチよりむしろ全ての音楽学生のニーズに基づいている。音楽教育者の増加によって授業でコンピュータ技術を利用する機会が与えられたように、有効であり可能な限り完全な範囲のアプリケーションを熟考することによって音楽教育における技術の役割への折衷主義的アプローチを採るように努力するべきである。

 歴史的にコンピュータ技術の最初の教育使用は、Computer-Assisted Instruction(CAI)としてアメリカで始まった。「学習指導(Instruction)」という語は、学生がコンピュータか又はコンピュータでプログラムされた学習場面(一般に対話型の指導-試験型の授業をさす)により特別な技能や知識を与えられる状況や、ドリル―プラクティス型のプログラムを通し、決まりきった機械的手順での学習が適しているような状況を意味する。他にCAIによる授業の型として学習ゲームやシミュレーション、モデリング等がある。さらに洗練された教育プログラムとしてComputer-Managed Instruction(CMI)もいくらか使われてきた。このCMIの構成要素は事前と事後の指導のためのテスト、ユーザーに作用する難易度の調整、ユーザーの学習困難さの診断、欠点改善の指示、ユーザーの演奏記録のメンテナンス管理等々を管理することができ、この方法を用い授業を個別化できる。Musicom(Xanadu international) はキーボード演奏において耳のトレーニングや理論や種々の様式で学習を促進するように設計された包括的コースウェアシステムの例である。それはドリル―プラクティス型授業と指導型授業の両方で用いられる。Practical Theory(Feldstein、1982)やThe Music Kit(Manoff 1984.第2Edition)のような音楽テキストに関する補足理論のために設計されたCAIプログラムがかなり使われている。耳の訓練のためのプログラムとしてPractica Musica(Ars Nova),Listen(Resonate Inc),Perceive(Coda Music Software),The Ear(Steinberg Research) のようなドリル―プラクティス型の基本的な教育計画を用いる一方で、それにもかかわらず、取り組むレッスン材料のような基本的選択はユーザーに任せている。これらのプログラムの多くは、様々な音楽的出力の方法(内部の音システム、または外部のMIDIシンセサイザーから出力する)と同様、様々な入力応答の方法(「マウス」で駆動されるピアノキーボードかギターフレットボードスクリーンか外部の外部のMIDI楽器を通す)に関して、よく配慮されている。

図1 CAI耳の訓練計画からの代表的スクリーンディスプレイの例
(Listen(Resonate Inc.)Macintoshコンピュータ用)

 CAIの特徴はいくつかの異なる観点から考えられる。教育学的観点から考えると、CAIは(その大部分において)スタイルが解説的であり、本質的に「コンピュータ中心」であり、ユーザーとの対話が「プログラムでコントロールされて」いる。それは高度に構造化され、そのアプローチは集中的(収束的)であり、受け入れ、依存するタイプ(受け身型)の学習を促進する。その理論的確証(裏付け)としてCAIがパブロフ(Pavlov)やスキナー(Skinner)、ソーンダイク(Thorndyke)、カーニュ(Gagne)のような心理学者いわゆる「行動主義者」に支持されたアプローチを持つことがあげられる。彼らはシステマテック・インストラクションやプログラム学習、そしてフィードバックと補強のような面を強調した。

 様々な個性があったり、その芸術的主題が異なっていても、この教育のためのアプローチに全く合う音楽カリキュラムのエリアがいくつか存在する。一般的にCAIは音楽理論や耳の知覚や視唱のような音楽教育の中でもいっそう専門化された「トレーニング」エリアに最もふさわしいように思われる。概して学生が対話するマイクロコンピュータによる個別化の基礎は、個別に割り当てられたユーザーネームや、維持されているユーザー演奏のプロフィールをコンピュータで管理された使用するための教育テクニックを考慮しようとする「Sign-on」が必要である。最新発表の教育プログラムはほとんどそうであるように、しばしばほとんどの教育計画が、音楽理論や「ドリル―プラクティス」のための「指導―試験」(コンピュータで処理される型のプログラム学習)か、音程やコード認識、リズム、旋律、そして和声のディクテーションのような耳の知覚技能の授業のための「学習ゲーム」であった。

 たとえば耳のトレーニングでは、音程構造の理論的基礎および音程の視覚的描写に関して耳による音楽認識のような概念が学生に説明される。(そして証明した)かもしれない。しかし、音程知覚の心理的聴覚技能を、現実に獲得することと分析することは全く別問題である。実際に学生がどのように耳の知覚技能を得るかというプロセスは、十分に理解されていないし、実際にこのタイプの学習を開発する前にまだまだ多くの満足させる理論研究が必要とされる。ホフスター(Hofstetter 1981)はこの状況を次のように要約した。『結局、この実験(学生らが聞いた音楽をどのように主観化して、はっきり概念化させるかということを発展させるかもしれない認知のモデル)のプロセスを通して知識としてのそれが蓄積することを望む』(pp.265-6)

 一方、耳の技能を高める唯一満足なメソードは、ドリルとプラクティスを通じ「耳の刺激」に学生をさらして、正しい応答を補強することであった。これは伝統的に一斉指導の背景として行われてきたが、しばしば主に学習指導を個別化する上で殆ど満足な成果が得られなかった。しかしながら、かなりの個別化を成し遂げることが出来るかも知れないマイクロコンピュータベースのドリル―プラクティスの指導が、発達中の耳の技能のために大いに効果的であることがわかった。例えば、アメリカ合衆国のNew England Conservatory of Musicで行われた研究で、耳のトレーニングのためにCAIを用いた学生はCAIを用いなかった学生より50%以上も技能レベルを向上させたことがわかった。(Eaton,1986)。アメリカからの多くの他の研究もCAIが耳の知覚技能を高めるためにとくに効果的だということを示した。
  

(例、Hofstetter(1979)参照)

 純粋に音楽の観点からさらにCAIの重要な長所が1つあげられる。それは適当な音楽授業プログラムが音楽の同時視覚化(或いは視覚の音楽化)によって音楽の音(マイクロコンピュータからのオーディオ出力)を補強することである。ケムプ(Kemp 1986)は音とその絵画的描写の間が瞬間的につながる形を前進させることや、それによって音楽学習者内で音と記号の関係が促進させられることでコンピュータ技術が音楽教育者を生み出すという信念を述べた。彼が主張し続けているように、これは最終的に音楽のラインを見たり、心の中の音楽の音を聞くための能力またはエドウィン・ ゴードン(Edwin Gordon's 1980)が言うところの「オーディエイト」という用語に当たる能力の開発に行き着くはずである。 (Kemp 1986)たぶん当然のように現在はやっているアメリカの「基本に帰れ」の思想を強調する教育的風土 (Holland 1986)で「技術中心」と(又は)「知識重視」といわれているようなアプローチをアメリカの音楽教育は引き続き強調しているようだ。これらのアプローチは学校音楽プログラム(例えば多くの学校が持っているような一般的方法か、強く方向付けられた演奏のためのクラス音楽プログラムの内容の中だけでなく、システマティック、・インストラクションやその行動目標やマスター・ラーニングのような面を強調する学級授業の中でも明らかにされる傾向がある。これら2つの面はアメリカの音楽カリキュラムの範囲内でコンピュータ技術を用いるその主な方法にも反映している。CAIの楽器の音楽プログラムは今やクラス音楽プログラムと同じくらいありふれたものになっている。そしてCAIに用いられる教育学(ドリル―プラクティス、指導―試験)はアメリカの音楽教育で高度に構造化された解説的アプローチを反映している。

 CAI型のプログラムを支持する音楽教育者のニーズに応えて、CAI音楽プログラムを専門に扱っているソフトウェア出版社がここ数年出現し(そして栄えた):Temporal Acuity Products (Micro Music Inc.と合弁)Electronic Courseware Systems,Inc.とWenger Corporation等の会社がそうである。更に、音楽のCAIに対して関心を持たせ、それらのサービスを提供する協会が、1975年以来存在している。以前はNational Consortium for Computer -Based Music Instruction(NCCBMI)として知られ、1985年にAssociation for Technology in Music Instruction(ATMI)と改名された協会である。このようにアメリカにおける学校教育の中のコンピュータ技術の主な使用は教育のためのメディアとして現在に至っている。

 更に最近のハードウェアとソフトウェアの進歩によって、学生ユーザーがこのタイプのCAIプログラムと対話することでいっそう自由を与えられるような新しい形式のCAI(CALモードの「対話型の探求学習」)の開発が可能になってきた。一連の「CDCompanions」がそれで、最初のものはベートーベンである。交響曲No.9(The Voyager Company)はマッキントッシュのハイパーカードシステムやコンパクトディスクからテキスト、グラフィックス、オーディオの選択ができる統合化されたシステムを使った特定の音楽的作業の「探求」ができ、ある種のCD−ROMのオーディオ装置と対話形式で結合する。更に最近アメリカのレコード会社Warner Brothersの子会社が、その「Audio Notes」 シリーズ―モーツアルトで、魔笛とベートーベン弦楽四重奏No.14(Warner New Media)の2タイトルを発表した。これらのパッケージはそれぞれ多数の絵、追加の音楽サンプル、解説、歴史的情報、用語集、索引等で補われており、すべてがマッキントッシュのハイパーカード・システムを通してCD−ROMディスクから呼び出されるデジタル録音のCD−ROM(魔笛では143分以上の音楽)からなっている。

 

図2 モーツアルトのスクリーン・ディスプレイの例
「魔笛」(Warner New Media)Macintosh ComputerのHyperCardプログラム

 一部の教師や少数の学生が倫理的根拠に基づき、CAIの使用に反対しているという事実にもかかわらず(一般にこの反対は、学生の演奏記録が保存されることに基づく)、この教育のための方法は、それにもかかわらず音楽のなかでも理論に基づく面を教える方法として有効的に使われてきた。そして多くの場合、作曲や演奏のようないっそう創造的音楽教育追求に携わる教師を自由にした。CAIは音楽教育における指導するのが難しく、強制的動機づけのきかないエリアのための万国共通の万能薬では決してない。しかしながら音楽教育者は音楽教育の中でいっそう創造的で、美学的な結果が得られる面と比較して同じくらいあらかじめ必要な技能面において学生が学習を成し遂げるのに効果的で、時間効率の良い方法としてCAIを使うように進んで配慮すべきである。

 過去10年以上かけて、または急進的に一般教育のあるエリアの中でマイクロコンピュータを使うというCAI利用の異なるアプローチがアメリカおよび他の国に取り入れられてきた。このアプローチにより、学校環境としてマイクロコンピュータを利用している学生(例えば、数学教育においてLogoのプラミング言語のグラフィックスモードを使いある種の数学的で、幾何学的な概念を開発するための利用)、又は学習道具として利用している学生(例えば、特有の概念を調査するためのベータ・ベースの利用)、個人の道具として利用している学生(例えば、小論の準備や「書く」宿題のためのマイクロコンピュータをベースにしたワード・プロセッサーの利用)等が強調されてきた。言外の意味として、学生ユーザーがCAIほど構造化されていない種類の学習をすることや、ユーザーが自ら課題を設定し、発見することがベースになっている問題解決能力に頼ることなどを含む。学習のための個人の道具としてコンピュータ技術を使用することは、教育学的観点から、学習者中心であり、ユーザーがコントロールする対話型の次元が関係している。そしてその方法は一般的に無構造でオープンエンドなのでアプローチが分岐すること、発見をベースにしたタイプの学習が促進されることが考えられる。認知理論的に学習の道具としてコンピュータ技術を使用することは、ハーグリーブス(Hargreaves 1986)たちがピアジェ(Piaget)やブルナー(Bruner)やガードナー(Gardner)らの理論を取り入れ「認知の発達理論」のアプローチとして言及したことに基づいている。

 音楽教育的観点から考えると、ひょっとするとコンピュータ技術の最も潜在的で重要な能力は、伝統的音楽の技能(特に演奏技能)を欠いているかも知れない学生のために、上級技術に集中した指導から、技術無用の集中指導や少なくとも初歩的技能に集中する指導へと創造的音楽のプロセスのある面を変革させることが可能なことである。マイクロコンピュータをベースにした「ミュージック・コンポーザ」型の音楽の中の技術に集中した面を排除した環境の中で作業をすることにより、学生が自分たちの音楽的アイデアを試みて、それを改善したり、瞬間的聴覚である(そして視覚的である)マイクロコンピュータかコンピュータ楽器によるフィードバックの応答の中で、それらのアイデアに磨きをかけたりすることができる。(Wells, 1986, p.22) 。バムバーガー(Bamberger 1973)はプロの作曲家だけでなく学生が音楽のスクラッチ・パッドとしてマイクロコンピュータを使用すべきだと主張し、なおいっそうこの立場をとった。この概念を言及することで彼女は次のように言った:

 これは学生が自分自身、或いは誰かがアイデアを楽器で実現しようとするのに待つことなくすぐに彼の音楽的アイデアや聴覚的イマジネーションの結果だとわかる方法である。このような実験によって学生の理解を助け、音程関係や、ピッチと音符の接続時間の相互作用や、旋律構造や様々な構想を理解することが可能になる。学生は音や時間に関する彼のアイデアの素早いフィードバックによって、すぐに音楽の方法と効果の間の関係がわかる。(Bamberger 1973,p.54)         

 この陳述は、マイクロコンピュータの聴覚的フィードバック能力が聴覚化の過程を迂回するために使われるべきだというよりむしろ「内の聴力」の正確さを確かめて、いっそう広い音楽環境で音楽を考えることの影響を十分に認めるために使われるべきだと解釈すべきではない。   

 スクリップ(Scripp)やメイヤード(Meyaard)やデビッドソン(Davidson)(1988)らのわずかに異なる観点によれば、音楽の演奏に関する系統的な訓練や(か)、作曲のような「いっそう豊かな音楽の仕事」の中の表記法を欠いているかも知れない学生に携わる音楽心理学者の間で(たぶん音楽教育者の間でも)伝統的に納得のいかなかった主張がなされている。しかしながら、それはバラバラで(或いは)一貫した記譜上のシステムや作曲のようないっそう高いレベルの音楽活動から音楽的訓練を受けていない人を閉め出した可能性があるシステムには音の結果を確かめる方法が不足しているだけかも知れないと彼らは提案する。Musicworks (Hayden Software),「Music Writer」モードのCncertware+(Great Wave Software) ,Notator(C-Lab), Music Construction Set (Electronic Arts) のようなコンピュータに基づく「音楽構成システム」(ワープロと同じ意味でのシステム)の有効性により、これらの問題が克服できるかも知れないと彼らは提案した。

 

図3 Macintosh ComputerのためのMusic WriterモードのConcertware+(Great Wave     Software)からのスクリーンディスプレイ

 コンピュータスクリーンは、音楽の初心者が標準音楽表記法の符号を扱うことができ、そして結果として生じる演奏を楽にモニターする対話型の音楽の環境となる。コンピュータは、ユーザーに表記法の正確な演奏とリンクしたバラバラで一貫したシンボルシステムを探求できるようにすることで、訓練されていない人々が作曲によって自分の音楽的知識を論証するため新しい活動の場をもたらす。 (ScrippとMeyaardとDavidson 1988.p.77)

 同時に、学生作曲家に要求される形式上の音楽的技能が減少したように、マイクロコンピュータをベースにした作曲の環境により、全てに対する(もし全てでないなら、彼ら自身の音楽や他人の音楽が実現する音楽的次元で)同時コントロールができることによって学生は大変音楽的になれる。つまりアンサンブルタイプ演奏状況をシミュレートすることによってコンピュータ技術はユーザーに音の高さや接続時間の最も基本的次元だけでなくダイナミックスやテンポ、音色、アーテキュレーション、構造、形式のような表情豊かで、そしていっそう高いレベルの次元をコントロールできるようにする。「Instrument Maker」モードのようなCncertware+(Great Wave Software)のコンピュータ環境によって、学生ユーザーが実際に「Music Writer」モードで作曲された音楽を実現することで使うかもしれない自分自身の音色を創ることができる。このプログラムにより最初の 20倍音群の振幅を操作し、それによってオリジナルの音色をシンセサイズする方法を与えられ、(望むならば)ビブラートの率と種類、そしてADSR(アタック、ディケイ、サスティン、リリース)で表されるエンベロープを通して音のアーテキュレーションを決定できる。このタイプのコンピュータソフトウェアは一方では各々の音楽的要素が集中することを考慮に入れるだけでなく他方では音楽に対する多次元的思考をも促進する。

 

図4 Macintosh コンピュータのための「Instrument Maker」モードの 「Concertware   +」(Great Wave Software)からのスクリーンディスプレイ

 最小限度の演奏技能を持った学生のためだけでなく、より優れた演奏技能を持つ学生のために、Creator(C-Lab)やMaster Tracks Junior(Passport Designs,Inc.)やSequencer(Opcode System)やPerformer(Mark of the Unicorn,Inc.)―適当なハードウェア(コンピュータに接続されたMIDI楽器)―のように「リアルタイム」で音楽シーケンス・プログラムへ音楽演奏を入力できるものがある。

 

図5 Macintosh ComputerのためのPerformer(Mark of the Unicorn,Inc.)が表示するシ   ーケンス・プログラムのスクリーンディスプレイ

 そのようなリアルタイム入力は音の高さや接続時間の長さだけでなく、ダイナミックスやアーテキュレーション、テンポのような表情豊かな要素の併行記録もできる。つけ加えると、現在ほとんどすべてのシーケンス・パッケージには音の高さ(例えば移調)、リズム(クオンタイズを含む)そしてテンポ、ダイナミックス、ビブラート、ベロシティとアーテキュレーション(しばしば記録された演奏の再生をする際に「リアルタイム」での)を含む他の音楽のある表情豊かな面を後から入力する操作能力がある。又、音楽が再構成できるように、シーケンサーもその形式上の構造の観点から演奏の種々のセクションに後からの再配列を 入力できる。しばしば音楽的構成全体から異なる音色を種々の音声へ再び割り当てたり、新しいパートを追加したり、現存のパートを削除したりするための準備もされている。

 コンピュータ技術によって、学生が彼らの発達的経験の中にあるステージで、存在する音楽的な先駆的図式へと新しい概念を同化するのを援助できる彼らの音楽的思考を客観化することによっていっそう効果的に学ぶことができるかも知れない。例えばあるマイクロコンピュータをベースにした音楽プログラムと環境は、子どもが音楽イベントを実体のあるものとして扱うことができるようにして学習へのこのアプローチを促進させることができる。これはピアジェ主義者と「認知の発達理論」の心理学者に、経験的知識に基づく成長の「具体的操作」ステージにいる7才から11才のグループの子どもに適しているように見られている。

 伝統的に作曲を実現するために必要とされた音楽作り(特に「リアルタイム」演奏)の技術に集中した面を迂回している間に(同時に)、「特別のニーズ」を持つ学生(特に身*3体障害であっても)に音楽教育の機会を与えるため、特に適切な音楽的次元上に直ちに同時のコントロールを与えることは、大いに学生に能力を与える。マイクロコンピュータをベースにした「ミュージック・コンポーザ」プログラム(各々の音符について、音符の接続時間、ピッチ、アーテキュレーション、ダイナミック等の各々の次元についての情報の入力ができる)に音楽的データを入力する「ステップ・タイム」という方法は、さもなければ全く拒絶されたであろう身体に障害のある学生に音楽作りへのアクセスの機会を与えた。タッチタブレットかMIDIキーボードの媒体を通してのステップタイムによる入力やPitch Rhythmの装置(ときどき「PRD」に託すマイクロホン入力と分析装置)、複数パート曲を作るためのマイクロコンピュータをベースにしたシーケンサー能力の使用、曲を演奏するための「再生」能力の使用、これら全ては身体不具の学生が他人に依存することなく、音楽で自分自身の創造的ポテンシャルを実現することを可能にする。ミクリー (Meckley 1986)はマイクロコンピュータをベースにして音楽を組み立てている環境によって身体に障害のある子どもが音楽的発達を促進しただけでなく、彼らの音楽的信頼と自己・尊重を非常に増やしたことを証明した。マイクロコンピュータをベースにした作曲・演奏の環境を用いることは、何もできない若い人がポピュラー音楽の世界へ活発に掛かり合う可能性をもたらす。初めて、重い身体障害のある子どもが、ティーンエイジャー文化のポピュラー・ミュージックの作曲や演奏でもって活発な役割を果たすことができる。(Drake and Grant ,1987)

 アメリカ合衆国の状況と対照的に、英国における現在の学校教育へのアプローチは、少数の生徒を対象とした専門的訓練(通例器楽教育プログラムを通して)か、大多数を対象とする普通又は学級音楽との区別を付けようとするものである。このアプローチの一部として、しばしば「大多数の非音楽的集団」として(全く誤って)考えられた人々にも可能な限り技術中心ではなく、いっそう容易なアクセスにより音楽を創るプロセスを作ろうとする動きがあった(例えば作曲)。英国文部省が1985 年に発表した資料4の5才から16才の音楽という題の音楽カリキュラムでの強調点は、「作曲・表現・鑑賞」であり、伝統的器楽と(又は)声楽の音楽技能に「非強調」のマークが付けられた。コンピュータ技術は、主にマイクロコンピュータをベースにした「ミュージック・コンポーザ」プログラムとシーケンスの装置だが、この「能力のない者のための集中治療」の方法に非常に貢献するとともに今までよりはるかに大きい作曲の可能性を学生にもたらしている。英国で使用するために書かれたCAI音楽プログラムもあるが(主にBBCマイクロコンピュータのために)、 これらは今学校においてだけめったに使われるというわけでは無い。コンピュータ技術の使用は、創造的道具としてのアプリケーションの方へもっぱら向かっている。

 この論文で論じられたことを要約する試みとして、次の図6はアメリカ合衆国と英国の音楽教育でのコンピュータ技術の使用法を示している。

  図6 音楽教育におけるコンピュータ技術のアプリケーションの描写

 
教育のための媒体としてのコンピュータ技術個人の道具としてのコンピュータ技術
コンピュータ技術のアプリケーション
コンピュータによる学習指導(CAI)
(コンピュータ利用の学習 CAL)
コンピュータ管理された学習指導(CMI)
創造的道具
演奏の道具
音楽構成と
印刷の道具
教育学的スタイル:
プログラム学習
感受性がある学習
利用者が支配する学習
発見学習
下にある学習理論
行動主義者(例 パブロフ・スキナー・
ソーンダイク・カーニュ)
認知の発達理論(例 ピアジェ・
ブルーナー・ガードナー)
コンピュータ技術が、役目を果たすであろう音楽カリキュラムのエリア
音楽に関する理論
耳の訓練
視唱
器楽の訓練
創造的な仕事(作曲)
クラス演奏
即興
音楽編集・印刷
(Stevens(1988)から改作)

 冒頭で示されるように、ちょっとした分極化はアメリカ合衆国と英国において音楽教育でコンピュータを利用する方法に関して持ち上がった。これら2つのアプローチには、教育学的でそして認知論的確証(裏付け)になることにおいて明らかに相違があり、そして又国家的レベルにおいてのそれぞれの音楽カリキュラムへの強調があるのにもかかわらず、コンピュータ技術は合衆国と英国でも他の国と同様に音楽教育の完全な領域に渡るものを音楽教師と音楽学生にもたらされねばならない。教育のフィールドにおいていかなる新考案も完全に利用するために、教師はその新考案が自分と自分の学生のそれぞれの授業の目的を成し遂げる援助になるかどうかという観点からもたらされる全く客観的で、そして全く公平な視野を持つ必要がある。

 CAI型のコンピュータ技術は、焦点が特定の理論的知識、および聴覚と演奏技能の獲得にあるいっそう構造化された学級音楽のカリキュラム(合衆国では典型的な音楽実践)の範囲内で有用な役割をはたしてきたことが提案された。しかしながら、そのような構造化されていない学習環境は英国の音楽教育で見かけられるかも知れない。CAIは作曲や演奏へのいっそうオープンエンドな創造的アプローチのために学生が本質的に事前に不可欠な概念または記譜法上の技能とみなされる可能性があったことをいくらか得ることができる効果的で、有効な方法として利用される可能性がある。逆に音楽技術は、創造的音楽のための道具として英国のクラス音楽への影響をかなり持っていた。このようにいっそう高度に構造化されたクラス音楽プログラムで、学生は米国で典型的であり、いっそうオープンエンドなコンピュータに基づく作曲の環境の範囲中で経験豊かな創造的音楽活動から確かな利益を大いに与えられる。このタイプの環境は、学生に次のような利点を与える。音楽的考えを客観することができる方法や彼らが作曲で「前提とすること」である瞬間的聴覚、また視覚のフィードバックと(全てではなくても)ほとんどの音楽の次元にたいする無限のコントロール、そして彼らの個性や総演奏能力を超えて存在するかも知れない完成された作曲を実現する方法へのアクセスである。

 それゆえに大西洋をはさんだ両側の音楽教育者がコンピュータ技術を適用することへの折衷主義的アプローチを採るように努力すべきであり、両方にとって最良の世界である、彼ら自身と彼らの学生に役立つこの刺激的新考案による音楽教育を提案する。

  REFERENCES

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