平成5年度学位論文要旨(1993年12月20日受理)

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なお本著作物の著作権は吉田正信biwahoshi@d2.dion.ne.jp (Shoshin Yoshida)と兵庫教育大学に帰属します。

音楽科教育において空間的表現を利用することの
有効性についての研究

教科・領域教育専攻 芸術系コースM92663J  吉 田 正 信
主任指導教官   鈴 木  寛

1.研究の目的と意義
 音楽科教育での授業では多種多様な教材が使用されており、その機能も広範囲な分野に及んでいる。本研究では、その教材の機能を「可視化」という範疇から考察を深め、音楽の学習における可視化教材の在るべき姿を追求してゆくものである。
 そもそも教材の本意は、教授学習活動を通して音楽そのものの持つ感動的な価値を学習者に適確に運ぶ為のものであると言える。また、教材は学習者の音楽的な活動を誘発し、運ばれた結果として学習者自身の主体的な音楽活動を育てるものでなければならない。
 この視点から視覚教材の意義を考察すると、視覚によって学習者の音楽的な学習を支援、援助していくものとして位置付くものであると言える。
 現在、音楽の授業では、当り前のこととしてビデオやテレビ、そしてコンピュータなどの機器が導入され、それらが音楽の授業における教授支援媒体として存在している。しかし、果たしてそれらの視覚教材が学習の支援として、有効に機能しているかどうかについては、その科学的な検証が及んでいない現状である。  そこで、本研究では、この音楽における視覚教材の意義について検討を深め、その中で特に音楽そのものを可視化することでの有効性について、実験的研究を行ない考察する。

2.研究の方法
 本研究の視座に於ける中心的な側面は、音楽に於ける知覚認知と視覚的な表現に於ける知覚認知である。特に、音楽的な様相と視覚的な空間的表現の相互の関連的な機能を研究する。方法としては、初等科に於ける音楽の授業に有効と考えられる可視化教材のモデルを構築し、サンプルを生成して仮説を立て検証し、分析を加える。また、この結果から可視化教材の有効性を考察し、実際の授業での方法論的展開の可能性について言及してゆく。

3. 論文の構成
論文の構成は次の通りである。

まえがき

第1章  音楽科教育について
  1.音楽科教育の意義
  2.音楽の学習とは何か
  3.学習者主体の音楽学習とは何か
第2章  音楽科教育に於ける教材の意義
  1.教材の教育的立場
  2.教材の構造化について
  3.教材の機能
  4.音楽科に於ける教材
第3章  音楽科教育に於ける可視化教材の視点
  1.視覚教材の具体的な機能
  2.音楽の学習に於ける可視化教材の教育的意味
  3.情報処理理論から考察した可視化教材の意義
第4章  可視化教材の有効性について
  1.視覚映像について
  2.音楽の学習に於ける具体的な可視化の可能性
  3.仮説の形成
第5章  実験
  1.第1実験
  2.第2実験
  3.第3実験
第6章  結論
  1.学習者の知覚や認知の段階での視覚優位の問題
  2.可視化教材が有効と考えられる音楽的な概念と視覚的な情報の
    質との関連について
  3.学習者に於ける発達段階と可視化教材との関連について
第7章  教育に於ける可視化教材の可能性
  1.音楽の知覚認知の研究的視座をめぐって
  2.楽譜と可視化教材
  3.教育に於けるコンピュータ利用について
  引用文献一覧
  参考文献一覧
  終わりに
  謝辞・資料・付録

4.論文の概要
 まず、結論として、音楽的な知覚認知と視覚的な知覚認知との関連性は、一部の特殊な場合を除いて、有効には働かないということがわかった。つまり、学習者の音楽的な概念や様相の感受は音楽そのもので知覚認知することが、最も重要であることがわかった。このことは音楽に於けるさまざまな構造についての概念が可視化によって表現されることの危険性を示唆するものとなった。また、今後の視覚教材の検討的課題として、音楽に於ける認知心理学的研究の教育的な展開の必要性が確認出来た。
その中で、音楽における群化についての研究が可視化教材の構築にも有効に関わることが分析結果より考察出来た。まとめると、本研究によって深められたことは、音楽の情報としての独自性と、音楽の持つ他のどの媒体的な支援を必要としないすばらしい価値の確認であったと言える。


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