第二章では、てるてる坊主を1.人形習俗、2.日乞い習俗という二つの観点から、類似習俗をあげ、日本のまじない習俗全体におけるてるてる坊主の姿について明確に捉えていこうと試みた。人形習俗という観点から、共通点の多い雛人形と比較してみると、その原点は共通して藁人形の習俗にたどり着く。また、雨に関係のあるものとして河童や馬をとりあげたが、やはりこれらも藁人形が深く関わっている。そして、これらの習俗も、てるてる坊主と同じように、その祈願行為は簡略、縮小化しているのである。このように、てるてる坊主も、全体の流れに逆らうことなく変化を遂げたといえる。
 これらの習俗の縮小傾向の一因は、その伝統習俗の必要性がなくなったことにあると考える。今や不確かなまじない行為に頼る必要がなくなったのだ。そして、商業の参入により願いからかたちへという純粋な流れは失われた。
しかし、今も外形のみを残し、さらに以前より盛り上がりを見せている伝統行事も少なくない。このように生き残り、大きなイベントとなった習俗には、古い願いに替わり、新たな願いがかけられていると考えられる。その願いは、主催者側にとっては、村おこしや観光でなどであり、参加者側にとっては、息抜きや発散の機会であったりする。このような新たな願いをかけられた習俗は、新たなかたちへと変容していく。
 画一的になりつつある伝統習俗に、寂しさをおぼえることもあるが、民間習俗が時代の変化に伴って変化していくのは当然の姿である。これらの習俗もやはり願いを背負って現代のかたちがあるのだ。
このような流れの中においても、てるてる坊主は、商業的にとりあげらることもなく、細々と生き長らえてきた。その結果、本来の願いを失わずに受け継がれている。そういう意味では、貴重な存在であると言える。

4. 主な参考文献
l 高橋健一「てるてる坊主考・序説」民具マンスリー,33-7:pp.7577-7595,2000.10
l 小松和彦「照々坊主の原像−小栗判官譚の解読に向けて−」基督教文化研究所研究年報,
l 神崎宣武,ちちんぷいぷい−「まじない」の民俗,株式会社小学館,1999.
l 宮田登,江戸の小さな神々(新装版),青土社,1997.
l 柳田国男,定本柳田國男集第三十一卷(新装版),筑摩書房,1979.
l 山田徳兵衛,フレーベル新書16人形の世界,株式会社フレーベル館,1976.
l 加藤秀一, 日本 その心とかたち はじめに形ありき,株式会社平凡社,1987.
l 斉藤良輔,人形−日本と世界の人形のすべて 第三巻 郷土人形と玩具,株式会社京都書院,1986.
l 大野桂,河童の研究,株式会社三一書房,1994.
l 岩井宏実,ものと人間の文化史12 絵馬,財団法人法政大学出版局,1992.
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