てるてる坊主にみる日本人の願いとかたち

98607A 頃安あずさ
指導教官 福本謹一

1. 研究の動機
 現在、誰もが何となく知っている、身近な習俗の一つであるてるてる坊主だが、考えてみれば、あの小さな人形が天候を左右しようなどとは、随分大それた話である。あれは、一体何者なのだろうか。このような疑問から、てるてる坊主について調べてみることにした。
この論文では、てるてる坊主のいくつかの特性について調べ、次にそれらの特性について、てるてる坊主に類似していると思われる習俗と比較していく。その中で、てるてる坊主とはいかなるものか、まずはその姿を捉えようとしている。そして、我々日本人が願いというものをどのように表してきたのかということを探り、また昨今のその有り様について考えた。

2. 論文の構成
第一章 てるてる坊主について
第一節 てるてる坊主の名称について
第二節 童謡『てるてる坊主』
第三節 てるてる坊主のフォルムについて
第四節 てるてる坊主の祈願手順
第二章 日本人の願いとかたち全体にみるてるてる坊主の姿
第一節 人形を使った習俗としてのてるてる坊主
第二節 日乞い、雨乞いの習俗としてのてるてる坊主
(1) 天気祭りとてるてる坊主
(2) 河童とてるてる坊主
(3) 馬とてるてる坊主
第三章 現在のてるてる坊主の姿
第一節 風習の形骸化
第二節 イベントと習俗

3. 論文の概要
第一章では、まずてるてる坊主の名称について考えてみた。てるてる坊主が民間の習俗として親しまれるようになるのは江戸時代のことであるが、その頃てるてる坊主を指す名称は、たくさんあった。それらの名称は天気を指す前半と僧侶を表わす後半の言葉に分けられるという点で共通している。
このようにたくさんの名称が「てるてる坊主」に統一された切っ掛けは、童謡『てるてる坊主』大正時代から昭和初期にかけて流行したことではなかろうか。とくに挿絵付きの小学三年生の音楽教科書への掲載は、その定着に大きな影響をもたらしたと考えられる。
メディアを通して一般化されたのは、名称だけではなく、そのフォルムや祈願の手順についても同じことが言える。江戸時代は折り紙のように折って作られるもので、五体がはっきりと認識できる、より人間にちかいかたちのものであった。その形代を半分に切ったり逆さにつるしたりして祈願する。そして願いが叶った際にはもとの真っ当な姿になおし、お酒やごちそうを供え、川に流したりするのだ。現代ではフォルムも手順も簡略され、人間的な感情が伴わないまじない行為となっている。

NEXT