2、 研究の概要
 第1章では、音と人とのかかわりについて文献をもとに調べを進めた。
 第一節では、音と環境について検討した。人を包み込む環境音や生活音が物理的な音として存在しているだけではなく、音には歴史性や地域性のある記号として何らかの意味を持つこと(サウンド・スケープ)がわかった。第二節では、聴覚から受ける刺激が他の感覚も刺激し、イメージを形成する働きをしていることが明らかになった。特に、音楽を音刺激として人の感情に対する心理効果を検証した調査で、ポピュラー音楽のメロディーが、人の心にまとまったイメージや感情を呼び起こす働きがあることがわかり、音とイメージとの関係性について示唆を得た。
 第三節では、音と視覚的なイメージに関して、楽譜、言語、造形などの表現について調べた。造形世界においては、音をアートとして視覚化するサウンドアートや音と映像表現を組み合わせた表現が多様に展開していることがわかった。サウンド・アートの例では、ピーター・リチャーズが試みた海の中までパイプを伸ばし、パイプを打つ波の音を聞くといったウェーブ・オルガンがある。音と映像表現を組み合わせたメディア・アートでは岩井俊雄と坂本龍一によって、ピアノのような色彩鍵盤を弾くと、光の点が同時に立ち上がるという音に光を加えた試みをしたものなどがある。
 これらの例が示すように、聴覚と視覚をつなぐ表現の試みが多様に展開されていることがわかった。