3.研究の概要
 第1章では、まず想像力の意味について文献をもとにまとめた。想像とは、ある事柄を頭の中に思い浮かべるように、空間に定位していない心像(イメージ)を作る働きのことを指している。そのイメージされるものは実際には存在しないものであるが、全く新しい産物であるとは言えない。想像は実は過去の体験をもとに新しく再構成されたもので、つまり過去に見たり聞いたりした事柄を新しく構成し直して作られたイメージなのである。
 第2章では、想像された表現の中で異形・怪物に着目して、その特異性について述べ、さらに怪物表現を多数描いた画家についてその流行や表現について調べた。そして、怪物表現について、その奇怪な形態を認識しやすくするために類型ごとに分類する作業を行った。数多くある怪物表現もその想像される傾向があり、それを分類することによって明確化することが目的である。分類にあたっては荒俣宏氏、伊藤進氏の分類を元に、整理し直してみた。その分類は、足の肥大化や首なしの人間など「A.器官の変化によるもの」、象をもさらうほどの巨大な鳥など「B.体の大きさの大小によるもの」、八股の蛇など「C.器官が複数になったもの」、人間+魚=人魚のように「D.種の交雑によるもの」、そしてそれ以外に体の器官(パーツ)だけのもの、擬人化されたものなどをまとめた、「E.その他」である。
 想像上の生き物の表現的な特徴を類型化すると上記のようになると考えられるが、たとえこれらの想像された図像が過去の経験からしか生み出されたものであるとしても、この怪物の形態の多さはやはり人間の想像力の多彩さと柔軟さを示していると言える。
 第3章では子どもの異形表現についての調査と考察を行った。まず、子どもの想像表現に対する予備的な項目として、好きなもの、嫌いなもの、怖いもの、気味が悪いものについてアンケート結果をまとめた。好きなもの、嫌いなものについては、食べ物などが圧倒的であったが、怖いもの、気味が悪いものについては生き物(特に蛇)が圧倒的であった。蛇の場合には、他の生物と構造を異にするためだと考えられ、こうした嫌悪感が異形・怪物表現を生み出すことと関係があることがわかった。
 調査では、実際に子どもに不思議な生き物を想像して描いてもらい、既存している怪物表現の手法やモチーフとどのような共通点、相違点があるか考察した。子どもの想像の手法もやはり設定した類型以外に分類されるものは見られず、「A.器官の変化によるもの」「D.種の交雑によるもの」による表現が多かった。つまり多くの子ども想像手法は造形作品に見られる類型と共通している。しかし、類型的には同じでも発想という点では面白いものも想像されており、子どもの発想力の柔軟さが伺えた。このように想像をすることによって子どもの想像力は発達していく。
 想像画を描くことによって子どもの想像力は新たな一面を開発されうるのである。

4.研究の反省と今後の課題
 本研究によって上記のことが明らかになったが、子どもの想像表現についての調査の対象人数も少なく、きわめて範囲の狭い調査に終わっている。また、得られた回答も有効に使いきったとは言えない段階であるので、調査範囲の拡大、アンケートの再考察など、今回の研究がより深いものになるように調査、研究を続けていきたい。

5.主要参考文献
『想像力』 内田伸子 1994 (株)講談社
『想像による絵画表現』 渡部景一 1982 (株)開隆堂
『怪物のルネサンス』 伊藤進 1998 河出書房
『悪魔のダンス』 1996 視覚デザイン研究所
『絵画3 想像・空想』 古市憲一 1981 (株)開隆堂