図画工作における材料に関する一考察

学籍番号95601F 石田 聡
指導教官 福本謹一

図画工作における材料に関する一考察

学籍番号95601F 石田 聡
指導教官 福本謹一


1.研究の動機
 材料とは図画工作の教育課程全体から言えばほんの一要素にすぎないかもしれない。しかし、逆に考えると図画工作の学習活動は、材料抜きでは考えられないものである。そして、その扱い方、提示の方法によって造形活動全体が、大きく変化することを実地教育の活動の中で強く感じた。そこで、本研究では、図画工作科の学習活動の中で、材料とはどんな位置を占め、どのように扱われているのかを考察し、図画工作における子どもと材料の関わりについて自分なりの考え方を明確にしていきたい。

2.論文構成
 1.はじめに
 2.第一章、各学習指導要領における        造形教育の考え方について
 3.第二章、各学習指導要領における材       料に関する指導について
 4.第三章、教科書にみる材料の利用情       況
 5.第四章、教育雑誌にみる、段ボール       を用いた題材の内容
 6.おわりに

3.研究方法
 まず、戦後の造形教育に対する考え方がどのように変化してきたのか、そしてその中で材料はどのようにとらえられてきたのかについて学習指導要領の変遷を追って調べ、次にそれを受けて編集されている現代の教科書や実際の造形活動の中ではどのような材料が多く使用され、どのように表現活動の中で扱われているのかを調べることにした。そして最後に、実際の授業実践(文献)での材料の扱われ方や指導者が材料に対してどのような思いを持っているのかを見ていきたい。
 具体的には、学習指導要領の変遷過程において、「材料」を観点としてその文言に着目して材料に対する考え方が戦後から現代に至るまでにどのように変化したのかを調べ、現行の教科書の中での材料の扱われ方を内容ごとに数値にして表わしてみた。そして最後に特に段ボールを用いた題材を取り上げ実際の活動内容を見た。段ボールという材料を取り上げたことについては、薄い二枚の紙の間に波状の紙を挟んだだけの構造であるが、軽いわりには丈夫な素材である。また貼り合せるなど組み合わせによっては、より頑丈になる。また平面表現にも立体表現にも使える。こうした多くの可能性を持った段ボールが実際の学習活動でどのように扱われているのかを調べてみたいと思ったからである。

4.研究概要
 第一章では、造形教育に対する考え方がどのように変化してきたのかを見てみた。学習指導要領の成立期においては、造形教育を生活のなかで役立たせようとする方向性がみられ、その指導においても技術を中心とした指導がみられたが、その後現行のものに至っては、児童の主体性や問題解決能力を重視し児童自身が活動する中で自らの気づきや工夫が大切であるとする指導観へと変わってきているようである。
 第二章では、特に材料に関する指導がどのように行われてきたのかを学習指導要領における「材料」に関する指導の考え方について検討した。児童が主体性を持って材料に働きかけ創造するという考え方は早くからなされていたようである。しかし、その最終的な目的は、初期においては多くの材料を経験し、その経験から得た発想を、金工、木工、紙工、などといったもの作りの活動に生かそうとすることであった。しかし、次第に指導書などに示される材料の数も減り、特に低学年においては、材料から発想して活動を楽しむこと自体にその意義を求めるようになっていった。ここにも児童主体の教育内容がよく表われていることがわかる。
 第三章では、学習指導要領で検討したことをもとに、実際の教科書の中で材料がどのように扱われているのかを調べてみた。 ここでは教科書の作品例に使用されている材料を、集計し、学年ごとに以下の6観点から分類して材料の出現回数を調べ、グラフに表わした。
 1. 用途・性格別
 2. 組成・品質・材質別
 3. 利用形態別
 4. 題材内容区分別利用形態別
 5. 主材料題材内容区分別利用形態別
 6. その他の材料の題材内容区分別利用形態別
 これらのグラフの結果を総合して考えると、扱われる材料としては、一年生では切ったり、くっつけたりなどの加工の容易な紙類などの材料が好まれて使われていることが分かった。三年生では、使用材料が多様化し、五年生では、逆に使用材料が精選される結果がみられた。これは造形的能力が高まったり、材料をみる目が高まったことが考えられる。
 利用形態に関してみると、それぞれの題材の性格を反映した結果がみられた。そして一年生においては、イメージの誘発、行為に誘発などが多く、材料の形から発想して、そこに何かを付け加えることが多い。これに対して、三年生・五年生になると、構成的な面が増えてきて、自ら材料の形を変えていこうとする態度がグラフの結果にも表われた。また高学年では、材料の形が変化する仕組や、動きを考えた、機能的な表現が示唆されていることがわかった。  最後に第五章では、児童の実際の活動の姿や、指導者が子どもたちに対してどのような意図や、思いを持って材料と関わらせているのかを、授業の実践(文献)から探るため、段ボールを主材料とした低学年から中学生までの9題材を取り上げその内容を調べた。段ボールを用いた題材を取り上げた理由は、薄い二枚の紙の間に波状の紙を挟んだだけの構造であるが、たいへん軽い割には、張り合わせるなどの工夫によって大変丈夫になるなど、大きな可能性を持った材料であるからである。学習内容を調べた結果、同じ段ボールという材料を使いながら、その活動の様子は材料の提示の仕方によって様々に変化することがわかった。

5.まとめと今後の課題
 研究を通じて材料が児童の創造活動に与える影響が大きいことが理解された。材料の持つ「性質」はあらかじめ定められたものではなく、児童の発達段階や教師の材料観、提示の仕方によって変化するし、材料の形・色が与えられたものから、イメージの中で選択される存在にもなることなどもわかった。
 今後の課題としては、実際の活動の場で様々な材料の可能性を、児童との関わりの中で考えていくなかで、教育全体、人と人との関わりについて見つめていきたいと思う。
参考文献 省略