3. 研究の概要
 第一章では、マンガを教育に取り入れる意義について文献を用いて考察を進めた。まず、美術教育の今日的動向を知るために平成10年版学習指導要領に目を通した。その中には「表したい内容を漫画やイラストレーション、写真・ビデオ・コンピュータ等映像メディアで表現すること」という記述があり、かつては「冗談の絵」という意味で風刺画や軽妙な線画のことでしかなかった「漫画」が、今や一つの独立した表現メディアである「マンガ」として教育に影響力を持ってきていることがわかった。
 次に、現代の子どもが生活の中でどの程度マンガと関わっているのかを知るために文献を用いて調べた。その結果、マンガの定着という側面では、94%もの子どもが好意を持ち、79%の子どもが定期的にマンガを読んでいるなど、明らかにマンガが浸透していることがわかった。マンガの教育的効用について考察を進めた結果、マンガの特性(吹き出しや擬音、デフォルムなど)が、表現の楽しさの保証、個性的で子どもらしい表現、絵画表現に対する苦手意識からの解放などにつながる可能性があることがわかった。
 次に、これらマンガの教育的効果を取り入れた授業の実践を紹介した。それによると、マンガが絵に対する苦手意識を払拭し、表現を引き出す契機となったこと、又、マンガ表現の一部で使用されるスクリーントーンなどの表現技術の効果が生徒の表現する意欲を高めたことなどがわかる。
 第二章では、表現と鑑賞の相互関係を図る視点で、美術作品をもとにその自分なりの感じ方や解釈をマンガで表現するという試みについての可能性を探るため、「美術作品をもとに4コママンガで表現する」という調査を実施した。
 まず、鑑賞授業の実態や、「芸術作品」の概念枠、鑑賞対象に関する嗜好についての予備調査(調査氈jを質問紙法(アンケート)によって行い、次に好きな芸術作品を4コママンガで表現する調査(調査)を大学生(本学学部2年生)85名を対象として行った。そして、得られた結果についての考察を進めた。
 調査氈iアンケート)の結果を見ると、学校現場での鑑賞教育は教科書や副読本を用いて行われることが多く、鑑賞の対象作品としてはほとんどが絵画作品であったことがわかった。また、「高校までに知っていた美術作家は誰か」や「好きな美術作家は誰か」という問いに対しゴッホやピカソといった一部の画家の名だけが圧倒的多数あげられ、今までの鑑賞教育の内容は偏りがあったのではという疑問が生じた。
 調査においては、4コママンガの作品(ストーリー展開の発想)に多種多様な表現の仕方が見られ、それらは12のパターンに分類することができた。また、マンガ表現における文字効果の大きさがわかった。4コマ作品を見てみると、調査前では認知されていなかった芸術家の作品が登場しており、この調査が学生にとって未知の芸術作品との出会いの場となったと言えそうである。
 
4.  研究の反省と今後の課題
 今回の研究を通して、マンガの持つ教育的可能性について理解を深めることができた。大切なのは、マンガを多々ある表現方法の一つとして捉えること、そして、子どもたちがそれぞれ自分に合った表現方法を見つけられるということではないだろうか。
 「4コママンガ」の調査については、より多くの学生が美術作品を深く鑑賞し、それを表現につなげられるようにするにはどうすればよいか、ということが今後の課題となった。また、調査対象の数の少なさ、幅の狭さなど自分自身納得し難い点があるが、これについては今後も研究を継続し、現場で面白い授業ができるよう努力を重ねたい。
5. 主要参考文献
 省略

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