3. 研究の概要
 本研究の第1章では、変身とは?ということについて考えるために、まず、変身の種類と意味について取り上げることにした。変身の種類を分類すると大きく分けて二つに分かれた。目にみえて姿の変わる外面的な変身と、行動や態度などの変化によって現れる内面的な変身である。さらにこれらを細かく分類することにした。その結果、外面的な変身は装身具、覆面、変装、変化(へんげ)の四種類に内面的な変身は社会規範、役割、地位の三種類に分類された。これらの変身の種類の共通点は何なのか?それを考えた時、自分自身の変身に対するイメージにもあったように、他者の存在、他者意識が浮かび上がった。この他者意識の浮上にともなって現れたのが自意識、自己概念だった。つまり、「変身欲求」の起こる要因は他者意識、自意識、自己概念というこの三つの関係により表されるのではないかと考えた。
 第2章では子どもから見た変身を考えるということで、まず過去約30年間におけるテレビの変身ヒーロー・ヒロインを調べることにした。そしてその変身の形態を動的な変化、静的な変化、変態、変装、装身、変化の6種類に分類した。次にこれらの作品を変身コード(変身時の掛け声)で分類してみることにした。そうすると、変身後の名前、変身アイテムの名前、特別な変身コード、呪文の四種類に分類することができた。これら分類による結果を分析することによって、子どもがどのような形態の変身に興味を持っているのかを調べていった。
 次に実際に子どもにアンケートをとることによって、その変身欲求を探ることにした。このアンケートは、子どもの変身に関するイメージの実態を知り、子どもにとっての変身の意味を考えることを目的としたもので、その質問は、(1)将来の夢など変身に関わる興味・関心、(2)テレビ番組のヒーロー・ヒロインに対するイメージの傾向(3)自分自身を対象とした独自の変身欲求の対象、 (4) 変身の活動を想定した場合の具体的な方法、(5) 造形的変身の材料・方法に焦点を絞り八つの項目を設定した。この調査結果を分析することによって子どもの持つ変身の意味を具体的な形で捉えていくことにした。
 第3章ではここまで調べてきた変身欲求が教育においてはどのように生かされているのか、またどのような教材が生かされていると言えるのかについて調べることにした。まず、変身を題材にした造形表現の教材を、A−見立て、B−変身・変装、C−仮面、D−投影の四種類に分類した。そしてそれぞれの種類に例を挙げて考察し、より具体的なイメージをつかんだ後、これらを教材数、学年別の視点から考えることにした。しかし、この段階では、自分の予想していたことと、この結果との間に大きなギャップがあり、疑問を残す形となった。この疑問を解決するために、第3節では今までの考察、特に第2章での子どものアンケートを基に、照らし合わせて、どのような教材が変身欲求を生かすと言えるのか、その可能性について考えていった。

4. まとめと課題
 この研究を通じて、一般的な観点から見た変身、それを基にした教材の可能性等について考えるだけではなく、他者意識の存在の認識という形で自分自身が持っていた感情についても考えることができた。しかし、他者意識は変身に関わらず、人間の社会の中で常につきまとうものである。今回は変身を調べていく上で他者意識が導き出されることとなったが、他者意識から変身を見ると、また違った意味を持ち、その可能性も今回と違う広がりを見せたのかも知れない。一つの事柄を調べる時、その見え方は当然のことながら角度によって変わる。一方向からだけではなく、多方向からの見方、視野の広がりが自分自身に必要なことだと考えた。

5. 主要参考文献
梶田叡一、「自己意識心理学への招待」、有斐閣ブックス、1994
我妻洋、「社会心理学入門」、講談社、1987
相賀徹夫、「日本大百科全書」、小学館、1988