今月の教材
「タブーへの挑戦−私が感じる「死」考」
○まえがき この題材の指導者、中堂元文氏は、平成12年(2000)9月8日、多くの人に惜しまれながらこの世を去りました。享年43歳、あまりにも早すぎる別 れでした。 氏は、大阪府泉大津市立中学校、大阪教育大学附属平野中学校で教鞭をとり、エネルギッシュな教育実践を展開し、平成11年(1999)からは、大阪教育大学美術教育担当助教授として教師のたまご達の指導にあたっていました。この『Web AE芸術と教育』にも創刊準備段階から参加されており、教材・題材のサイトを担当し、全国各地のユニークな実践を取り上げていくはずでした・・・。 この教材頁は、彼の遺した題材の紹介から始めたいと思います。
○これを目指して (1)「死」を意識することで、「いのち」の全体像をとらえ、その意味について考える。 (2)「死」のイメージを自分なりの表現方法、色や形で表現できる喜びを体験する。 (3)抽象的な表現に関心を深める。
○準備物 水彩用具一式、4つ切画用紙や紙粘土などの材料、ビデオやO・H・Cなど
○活動の展開と指導のポイント
○解題 これは、中堂氏が、大阪教育大学附属平野中学校在任時の実践である。この頃の中堂氏は、いくつかの研究会を通 じて、生徒の自己効力感self-efficacy、教科横断的な学習(クロス・カリキュラム)、ホリスティックholistic教育などを熱心に研究し、実践に生かそうと努力していた。研究の一端からの題材とはいえ、我々に何かうったえてくるものがある。 全体whole、健康health、癒すheal、神聖なholyなどの語と一緒で、ギリシャ語のホロス(全体)を語源にもつというホーリズムholismは、近代的思考である「分節化」に対し、その行き詰まりから、全体的・統合的な思考でこれを克服しようとしている。特に、生きる意欲に対峙するはずの死を、いつしかタブー視し生活する場から遠ざけたことにより、生きることそのものの大切さを見失っている現状に対して様々な教育実践が試みられている。これに共感し、美術(芸術)という方法・窓口を通 して、生徒に語りかけようとしたものだろう。 一つ間違うと、大変な誤解を生ずることにもなりかけない、この大テーマを、彼は、いつものように落ち着いて真摯に語りかけたに違いない。「色、身の周り、テレビ番組や小説などの情報」などの初期イメージから、A. キーファー、A. ウォーホールなどの「死の作品像」を示しながら、徐々に深めさせていっている。もちろん、自己をみつめ、生命の尊さを自覚させる言葉を伴わせながらである。 共通のテーマを表すために、表現方法・表現材料を自由に選択する手法がとられているが、こういった題材では、指導・支援が難しい場面 も出てくる。しかし、この対象生徒は中学校2年時に、題材「見えざるもの」において、これを一度体験してきており、無理なく展開できたものと考えられる。段階をふんだ指導であった。 (宇田秀士) |