●中学年の鑑賞学習

兵庫教育大学芸術系教育講座 福本謹一

【中学年】
 中学年の表現上の発達傾向を押さえておくと,描画で言えば,図式期の表現を脱してものとものの関係性を明確に意識するようになる時期である。

 絵を見ることにおいても,スーラの『グランドジャット島の日曜日の午後』であれば,「きれいな絵」(共感,嗜好)といった印象や「点々で描いてある」(技法への着目)などは低学年とも共通した反応があるが,「あっ,サルがいる」「船がある」といった個別的な指摘から「男の人と女の人が仲良く立っている」「女の子はどんな遊びをしているの」「女の人が岸で魚つりをしているよ」「これはどこの国なの?」と人やものとの関係や状況を指摘できるようになる。こうした認識の発達傾向も押さえながら,中学年の鑑賞のあり方や方法を考えることが重要である。

 学習指導要領では,中学年の目標の「自分たちの作品や身近にある作品,材料のよさや美しさなどに関心をもって見るとともに,それらに対する感覚などを高めるようにする」ことをふまえて,内容B(1)「作品のよさやおもしろさなどに関心をもって見るようにする」(ア)「自分たちの作品のよさやおもしろさなどについていろいろな表し方や材料による感じの違いなどが分かり,関心をもって見ること」(イ)「親しみのある美術作品や制作の過程などのよさや面日さなどについて,感じたことや思ったことを話し合うなどしながらみること」とされている。すなわち,生活用具も含めて形や色の違いに気づき,見る楽しさを起点にすること,自分なりの表現上の多様性を意識化すること,子どもたち自身や作家の制作過程への着目などが鑑賞の視点になることが強調されている。

 こうした観点に立って中学年の鑑賞を考えると,子どもたち自身の驚きや発見を促すと同時に教師の側でも見ることを促す視点や情報の与え方(提案)が重要になる。一例を以下に示しておく。
1)身近なものの形の面白さや変化に着目する
[気づく]空き缶のブルトップのついた部分や樹の幹の一部が顔に見えたりするなどの面白さ(見立て=視覚的類比)を身近に発見する。芸術作品に隠された作家の思いと子どもたちの作品に込めた思いを共有するのは「感情的類比」である。
2)芸術作品の見方を考える
[知る・試す]「東洋の軸物は,上下に見るし,巻物は右からというように見方に方向性がある」「西洋画は垂直に立てて描くのに対して,日本画は床に置いて描く」といった違いの背景情報をもとに,画用紙にとらわれない表現を話し合い,表現に結び付けるなどする。トイレットベーパーがちぎれないようにできるだけ長く色水で描いて(水加減の調節)「ながーい掛け軸」にする。
3)部分に着目する
[知る・調べる]「茶碗の裏に『目跡』と呼ばれる部分がある。(特に萩焼)人間の不完全性を謙虚に表すものとして入れられたもの。また,マネの「笛を吹く少年」ではマネのサインが二つ斜めにされている。これは奥行きを強調する。こうした部分への着目から興味関心を引き出し,調べ学習を促す。
4)作家の思いや制作過程を知る
 作家のことについて調べて,制作の様子や用具・道具と表現とのかかわりについて話し合う。
5)時間やサイズといった物理的条件から作品を見てみる
 作品のできあがる時間や大きさの違いに着目して多様性を知る。