見方や感じ方を広げながら,豊かな心をはぐくむ鑑賞活動
名古屋市立如意小学校  中 條 幸 治



●はじめに
 鑑賞活動には,子どもたちが互いに表現活動を鑑賞するだけでなく,親しみのある美術作品や暮らしの中にあるものを鑑賞していくものもある。そして,鑑賞するものの見方や感じ方を広げていくことによって,多様な表現の「よさ」や,思わず見とれてしまうような「美しさ」に気付くことができる。そして,その感覚を養うことは,「よさ」や「美しさ」に気付くだけでなく,表面的には表れない思いや願いを感じたり,創造性を膨らませて表現に生かそうとしたりする子どもたちの豊かな心をはぐくむことにつながると考える。そのためには,子どもたちのものの見方や感じ方をどのように広げていくかが重要になる。
 そこで,小学校の段階から,表現活動を互いに鑑賞する活動に加え,独立した鑑賞を位置付けることで,子どもたちの見方や感じ方を広げていく支援に重点を置いて実践を行った。
●見方や感じ方を広げていくために
 1 「よさ」や「美しさ」を感じることができる鑑賞活動の設定
まず,鑑賞活動の幅を広げていくことが必要だと考え,美術館を利用した題材を設定することにした。
美術館は地元の名古屋市美術館に協力を依頼した。美術館鑑賞は,初めてという子どもがほとんどで,美術作品との出会わせ方を工夫することによって,実物の作品を鑑賞することでしか味わうことができない表現の「よさ」や「美しさ」に気付くことができると考えた。さらに,生涯にわたって美術作品に親しもうとする関心・意欲・態度を育てることにもつながると考えた。
2 見方や感じ方を広げることができるような支援
様々な観点で鑑賞ができるようにすることが必要であると考え,次のような支援を取り入れていく。
@ 鑑賞活動で効果的に鑑賞の観点を見付けることができるようにする支援
鑑賞活動を行う事前に,鑑賞する対象に興味や関心をもったり,鑑賞の観点を見付けやすくしたりするために事前鑑賞活動を設定する。
●鑑賞の観点を広げるための支援
自分では感じることができなかった「よさ」や「美しさ」に気付くことができるようにするために,興味をもつ→自分の観点で見る→比較して広げる→見方や感じ方を生かすというステップで題材を進めていく。
●実践の内容
 1 題材名 「美術館へ行こう!」
「美術館で実物の作品を見てみたい」という思いをもつことができるような展開をするために,美術館鑑賞の事前に鑑賞活動を位置付け,子どもたちの見方や感じ方を広げることができるようにした。
【ステップ1:興味をもつ】 事前鑑賞1 カルタ遊びをしよう<1時間>
 美術館の作品のポストカードを利用したカルタ遊びを行い,美術作品に興味をもつことができるようにするとともに,読みカードから作品の観点を広げるようにした。言葉カードのイメージを思い浮かべてカードを見付けていくことから,作品の色や雰囲気,描かれているものなど,細かなところまで楽しみながら自然に様々な観点から鑑賞することができた。
【ステップ2:自分の観点で見る】 事前鑑賞2  お気に入りの作品を見付けよう<1時間>
 名古屋市美術館の常設展作品のポストカードを鑑賞し,その中から自分が気に入った作品を見付けた。
A児:「夜の自画像」宮脇 晴 写真みたいにリアルですごい。本物の人間みたい。血管までリアルだ。
B児:「20世紀」ルッシェ  島みたいな雲の縁のだいだい色がいいな。この絵をかいたときのルッシェの気持ちが知りたい。
C児:「WORK D.52」山田正亮 他の絵にはない不思議な感じ。しましまにかく絵なんてめったにない。
 カルタ遊びでの経験が生かされ,細かいところまでよく見ながら気に入った作品を見付けていた。ポストカードは手にとって鑑賞できることから,作品全体をとらえられるという利点がある。
【ステップ3:比較して広げる】 美術館鑑賞 美術館で鑑賞しよう<2時間>
 ポストカードで見付けたお気に入りの作品と,実物と比べながら鑑賞した。学芸員やガイドの方々の話を聞き,新たな発見をしたり作品への思いをもったりすることを期待した。
A児 実物を見て,肌の様子や毛髪など,至る所にあるリアルな表現に感動したようである。
B児 鑑賞していく中でポストカードでは見えなかった小さな船を発見したり,雲が鳥に見えたりするなど新たな発見もあったようである。
C児 目当ての作品「WORK D.52」が見つかると気になっていた茶色の模様をポストカ−ドと見比べていた。そのことをガイドさんに話し,共感をしてもらえたことによって,作品への興味が膨らみ,質問をしながら作品を鑑賞することができた。
【ステップ4:見方や感じ方を生かす】 表現活動: わたしの美術館<2時間>
 美術館鑑賞で見付けたお気に入りの作品カードを使って,自分だけの美術館をつくった。
A児は人の顔などがリアルに表現されている人物画が好きだから,人物画を入り口から正面にかけて展示した。B児は,不思議な感じがして,きれいな絵をそろえて,「不思議な美術館」をつくった。
現代美術に興味をもったC児は,不思議な絵や,ロボットなどがそろっている美術館をつくっていた。
2 実践を通して
子どもたちから,「不思議な絵やすごく大きな物とかあって,見学の時びっくりした。また,見に行きたいです」という感想が聞かれた。美術作品の表現の面白さや美しさに気付いたり,作品の大きさや表現方法などの意外性を感じたりすることができた。
ポストカードを利用した事前鑑賞を位置付けたことで,「美術館に行きたい」という気持ちをもたせることができ,大変有効であった。ポストカードは手に取ってじっくりと作品全体を見ることができるので,分かりやすくイメージをとらえやすいことが分かった。また,気に入った作品を見付けてから美術館鑑賞を行ったので,実物の美術作品の「どんなところを見てみたいか」という鑑賞の観点をもつことができた。
お気に入りの作品について,感じたり思ったりしたことを発表し合う場をつくったことで,お互いの作品への思いを共感し,友達の見方や感じ方を知ることができた。そして,美術館鑑賞において見る観点が広がり,学芸員やガイドボランティアの解説を聞くことによって,作品への思いが深まり,新たに発見したり気付いたりする中で見方や感じ方を広げていくことができた。
美術館鑑賞を行うことで,今まで疎遠だった美術作品の「よさ」や「美しさ」に興味をもち,身近に感じながら,見方や感じ方を広げていくことができた。