「鏡のなかの世界」〜王様のパーティ〜
辻 政博(東京都文京区立誠之小学校)
●私の鑑賞観
鑑賞活動と表現活動は、明確に区別できるものではない。むしろ、みたり、表したりという活動は、有機的に結合し、そこに意味を生み出している。特に、小学生においては、表象的な思考が独立しているというより、具体的なものを操作し、視知覚に投影されたなかで思考し、表す活動がおこなわれるといったほうがよい。ゆえに、子どもは、触れたり、みたり、表したりする活動をくり返し反復しながら、試行錯誤し、そのプロセスのなかで、自分にとって意味を生み出すといえる。
また、鑑賞は、作品のもつ「作者の意図」といったコードを読み取る側面もあるが、美術作品の鑑賞の場合、みる側の自由で、創造的な読みといった側面もある。みるものにとって、さまざまな読み取りが可能な、開かれたものとして、鑑賞及び表現活動を考えたい。
●実践の概要
(1) 授業設定の意図
ベラスケスの「ラス・メニーナス」の鑑賞を手がかりに「鏡」の存在に気づかせ、興味をもたせることから、授業をはじめた。この絵には、この絵を描くベラスケスが登場している。けれども、絵の向きとモデルの向きが、反対でこの位置からでは、この絵を描くことはできない。では、どうやって画家はこの絵を描いたのかという発問から、鑑賞の授業をはじめた。
子どもは、鏡に存在に気づくことで、この絵が、鏡の表面を写し取ったものであると体感したようだ。さらに、この部屋の奥にも鏡があって、そこには、王と王女がうつっているなど、絵の手前の様子まで、ばくぜんとだが、感じることができたようだ。このように、作品の鑑賞を鏡という観点に絞っておこなってから、鏡をつかっての表現活動へと鑑賞活動をつなげた。
絵画(鏡)という表面とその中(イメージ)、その手前(現実)といった関係を言葉ではなくみることでまず体感し、さらに、実際の鏡をもちいて表現活動に取り組むことで、自らの視線をイメージと現実の世界を往還させ、自分なりの意味を生み出しながら、そこに自分の世界を表現させたいと考えた。
(2) 私の授業実践の特色
「鏡」は、それ自体が、子どもにとって、造形的な興味や関心をそそるものである。ここでは、鏡を主材料にそこに映った像と鏡の手前にある現実の世界との対応関係のなかから、子どもが発想や構想を広げ、その他のさまざまな材料をもちい、その特徴を十分感じ取りながら、つくり方を考え、「みる−つくる」の往復を繰り返すなかで、表現活動に取り組ませたいと考えた。
特に高学年において、視覚的な対象の把握や技巧的な巧緻性も高まってきており、まなざしの往復運動のなかで、想像性や創造性の育ちを期待できる題材であると考えられる。
(3) 学習目標と評価規準
○ベラスケスの作品や鏡の特性に造形的な興味、関心をもち、すすんで活動にとりくむことができる。(関心・意欲・態度)
○鏡やいろいろな材料の特性を生かして、そこからつくりたいものを思いつき、自分なりの思いをもち、広げることができる。(発想・構想)
○鏡やいろいろな材料の特性を生かして、つくり方を考え、自分なりに表すことがでる。(創造的技能)
○「ラス・メニーナス」や友だちの作品の発想の面白さやつくりかたのよさに気づき、楽しむことができる。(鑑賞)
(4) 学習指導計画(10時間)
○対象学年 6年生
○材料用具 鏡、ベニヤ合板、スチロール板など
@「鑑賞」と鏡の土台づくり(90分)
Aおおよその構想でつくりはじめる(90分)
Bいろいろな材料をつかってつくる(180分)
Cしあげと鑑賞(90分)
(5) 授業の実際
@「ラス・メニーナス」の鑑賞。
・ベラスケスは何をみて描いたのかな。
・「鏡」をポイントに鑑賞する。
・画集だけでなく、モニターや拡大機のコピーで、作品を子どもにみせる。
・黒板におおよその作業工程を書き、流れをつかませる。
A鏡を土台にとりつける。
・ベニヤ合板や版画の廃材をつかって、土台を組み立て、鏡を接着する。
・鏡をつけると奥行きを感じるね。
・左右さかさまに映るね。
B材料をうつしながら、おおよその構想でつくりはじめる。
・並べる位置や角度によって、映り方が変わってくるね。
Cいろいろな材料を生かし、つくりながら思いついたことをもとにつくる。
・微妙な角度を調整して並べている。
・高学年になるとずいぶん細かいな作業も可能になる。
・お姫様が並んで、にぎやかになってきたよ。
・鏡をはさんで、サークル状に人物を配置した。
・動物に擬人化して表した。文字も逆さまに書いて、鏡にちゃんと映るようにした。
D鑑賞する。
・校内展覧会で展示してみんなにみてもらったよ。・
・解説をつけて、わかりやすくした。
(6) 評価の問題
評価は、評価規準の設定にそっておこなわれるが、それ以前に、子どもの個々に現われた活動のよさを見取ることができないと評価も機械的なものになってしまう。ここでは、活動をとおして現われた子どもの発想の面白さをまずピックアップして、子どもの表現に近づきたい。
・見る角度によって、王様が3種類のぼうしをかぶる仕掛けになっている。この児童は、「見る視点」というものを巧みに表現に取り入れている。
・この作品もまた、人物を半分だけ鏡につけ、視覚的な面白さを強調している。
これらは、鏡をつうじて、子どもが、実像と虚像の視覚的なトリックを発見し、活用している様子がみえる。
・鏡に映った机やもの、人物などの角度を微妙に調整し、構成していることがわかる。鏡に映った像と実物との関係性を客観的に見計らいながら、構成しているのである。
・動物が登場し、楽しい空想的なパーティがおこなわれている。
・王と家臣が対峙し、ぶどう酒で忠誠を誓っているシーン。
・現代的なウェイトレスが登場する女子児童の作品。
このように、子どもたちは、空想的な、あるいは、身近な生活をもとに、「王様のパーティ」といモチーフを色づけしながら、個々の思いや物語をそこに表しているといえるだろう。
(7) 考察
@ 鑑賞から表現活動へのベクトルのなかで、「鏡」への着目によって、それが有機的に結びついた活動となった。
A 高学年の児童は、鏡との対応のなかで、実物と虚像の関係、視点の位置や角度による像の変化、視覚的な広がり、映ったものをとおしての構成、さまざまな材料の活用など、多様な造形活動を展開できた。
B 子どもたちがつくりだした情景の多様さをみると、「王様のパーティ」という解釈しやすいテーマを設定したことで、子どもは、自分の思いを広げやすかった。
C 子どもたちは、遊戯的な感覚で興味関心をもち、積極的に活動に取り組んだ。
D 鏡をとおしてものをみるという行為は、みるという行為そのものを顕在化させ、表現活動を活性化させた。
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