「鑑賞の評価は難しい」のか?

兵庫県小野市立旭丘中学校教諭
高瀬 城作

はじめに
 「鑑賞の評価は難しい。」
 中学校の現場でしばしば耳にする言葉である。
 これは、鑑賞が個人の内面に深く関わる分野であるだけに、その力量を判断する基準や方法に関して迷いを持っている指導者が多いことを物語っているのではないだろうか。かく言う私も、何を隠そうその一人であった。
 この「難しさ」の原因として考え得るものとして、「感性」こそが鑑賞力の主体であり言語表現力とはまた別の力であると考える言わば「感性至上主義」的認識があるように思える。この場合、言語を媒介とせず感性を数値化することは非常に困難であることは言うまでもない。
 しかし、鑑賞は深い思索に根ざした高度に知的な作業であり、そのプロセスに言語が深く関わっていることは疑いないだろう。加えて美術史的内容や作家・作品に関する知識など、身に付けておくべき基礎・基本的内容も確かにある。よって、このような理知的な要素の切り捨ては現実的と言い難い。
 とはいえ、実際の定期考査等で出題した鑑賞領域の設問を振り返ってみると、多くの場合「知識・理解」的観点に立ったものではなかっただろうか。鑑賞領域の評価では、定期考査も重要な役割を果たしており、主要な評価ツールの一つとなっているが、現状の評価体系では知識偏重型に傾きすぎる傾向を否定できないであろう。
 ここに、中学校美術科での鑑賞教育における大きなひずみが生まれているように感じる。
 これらの問題を解決していくには、指導理念や目的についての見直しを含めて、鑑賞領域の指導法・評価法の整備・開発を押し進め、新たな授業の在り方を見いだしていく必要があると考える。そこで、このひずみ解決に向けた方向性を探る目的で、今回の「ラス・メニーナス鑑賞プロジェクト」における自身の研究の課題として、この評価の問題を取り上げることにした。

授業の概要
 今回の授業は、対話型美術鑑賞の手法を取り入れた授業案で、一人ひとりの作品批評力とコミュニケーション能力をいかに高めていくかに主眼をおいたものである。
 ここでは、作品の解釈や美術史的内容よりも、美術批評的な活動の導入段階として、作品を批評し鑑賞することそのものの楽しさを味わうことや、美術作品を「場」として周囲と意見交換しながら相互に考えを深めあう体験を得ることをねらっている。
 実施学年としては、その後の鑑賞活動へと発展的に結びつけていくことを期待して、1年生段階が望ましかったのだが、それまでの学習状況の都合により、今回は3年次となった。
 対話型集団鑑賞で美術批評をするにあたって、まず、その基礎となることは、鑑賞対象となっている作品に「描かれていること」をソースにして、そこからどれだけ情報を引き出すことができるかである。そのため、対象となる作品を細部まで集中して観察し、そこから様々なことを読みとろうとする姿勢が求められる。次の段階としては、読みとった情報を材料に、自分自身の解釈を導き出せるか否かであろう。また、それをみんなの前で発表するためには、その解釈の妥当性を論理的にまとめあげる力が大切である。さらに、他の生徒が発言した内容を受け、自己の考えと摺り合わせながら互いに考えを深めていくことが重要である。この、意見のキャッチボールと、それによる対象−解釈のフィードバックが、この対話型集団鑑賞の本質である。
 今回の、「ラス・メニーナス」は興味深い登場人物が多く、画面構成上も様々な工夫が凝らしてあり、生徒によっていろいろな解釈が可能になるため、このような鑑賞形式に非常に適していると言える。
 ただし、この方法の欠点として、美術史的内容などの知識面が押さえきれないことがあげられる。そこで、知識・理解的内容はワークシートを用いた宿題レポート作成による調べ学習で補うことにし、あわせて自らの手で資料を探し問題解決する力の伸長させることをねらった。
 以上のことより、この題材の目標を以下のように設定した。

○ 作品から情報を読みとる力と、そこから類推される様々な印象や考えをまとめ発言する力を伸長させる。【鑑賞の能力】
○ 他者の意見や思いを尊重し、ともに鑑賞活動を楽しみ深めていこうとする心情を養う。【美術への関心・意欲・態度】

 この目標を受けて、設定した指導計画並びに評価規準・評価基準は、学習指導案の中に示しているのでそちらを参照願いたい。

評価の計画
 このような内容の比較的新しい鑑賞手法をとる際に特に問題となるのが、評価資料の収集法や評価内容などをふくめての「評価のあり方」であろう。つまり、従来定期考査等でしばしば出題されてきた、作家や作品についての「知識・理解」的内容を問うような評価のみでは、学習目標に対する妥当性を持ち得ないからである。
 そこで、今回の題材における評価資料を次の4つに設定することにした。

 ○ 評定法による授業観察・・・・・・・�@
 ○ 授業ワークシート・・・・・・・・・�A
 ○ 宿題レポート・・・・・・・・・・・�B
 ○ 期末考査によるテスト法での評価・・�C

 対話型集団鑑賞では、様式や時代背景などの美術史的知識や作品・作家に関する情報などの予備知識をほとんど提示しないまま、活動に入る場合が多い。それは、このタイプの授業が知識獲得よりも「いかに作品に主体的に関わることができたか」または、作品鑑賞を一つの場として「思いや感動をいかに共有し得たか」を問題にしていることによる。安易に知識として「正解」を与えてしまうと、そこで学習者の思考停止を招く恐れがあるためである。
 今回の授業もこの点を重要視し、知識量よりも「関わりの質」を主たる評価項目として取り上げている。そのため、評価においての柱となる部分は、授業中の観察記録であろう。
 ここで、�@の評定法による授業観察でのチェックリストを提示しておく。

項 目                       ABC
自分の考えを積極的に発表しているか。
対象を真剣に見ようとしているか。
人の意見にしっかりと耳を傾けられているか。
人の意見に関連づけた発言ができているか。
描写に即した発言ができているか。
ワークシート記入にまじめに取り組んだか。
自らの意見を分かりやすくまとめて発言できたか。
画面構成や主題について意見を述べることができたか。
                             
 「関わりの質」の点からいけば、主体的取り組みへの手だてとして用いたツールであるところの�Aの授業ワークシートも、評価の対象として役に立つであろう。発表する前に自らの考えをまとめさせる用途で利用しているわけであるから、そこには、生徒自身の思考の過程や活動に向かう姿勢が表れているはずである。
 また、�Bの宿題レポートについても同様であり、与えられた課題に対する取り組みの姿勢と、基本的知識を正確かつ真摯に充実した内容でまとめられたかが、判断基準となる。
 �Cについては、期末考査の一部として設計したテスト問題を提示し、その出題意図と評価基準をもう少し詳細に検討してみることにする。


�A 授業ワークシート              

�B 宿題レポート


期末考査での評価
 ここに提示した問題は、28/100の配点で期末考査の一部として設計したテスト問題である。
 以下、設問におけるねらいと問題形式・観点・評価規準との関係等について記しておくことにする。
 対話型鑑賞の授業において重要なのは、知識量ではなく「関わりの質」であることについてはすでに述べた通りである。安易に単純な知識再生型の作問をすると、授業の基本コンセプトや目標と評価項目が乖離し、期末考査による査定そのものが何ら意味のないものへと変質してしまう恐れが出てくる。よって、今回の問題設計にあたっては、知識・理解的内容を最小限にとどめ、鑑賞活動における基本姿勢や、描写内容から情報を引き出しそれを解釈する力を問う設問を中心にすえた。
 各問における形式・観点設定と作問の意図は次の通りである。

1 論述形式(短文型)
美術への関心・意欲・態度
評価規準ア−�@�A
  対話型集団鑑賞をする際の姿勢について問う設問である。何のためにそうする必要があるのかという理由まで踏まえた上で、生徒の留意すべき点を記述させている。授業において、個々の生徒が具体的に何を心掛けていたのかを明らかにし、次の鑑賞活動における診断的評価として利用できるよう意識した作問でもある。

2−�@・�A 再生形式(単純再生法)
美術への関心・意欲・態度/鑑賞の能力
 評価規準ア−�@、イ
  単純に作品名と作家名を答える設問であり、「作家・作品に関する知識・理解」に分類され内容的には「鑑賞の能力」に入る。しかし、今回は調べ学習を取り入れていることもあり、「関心・意欲・態度」にも関係すると判断した。世界三大名画と呼ばれていることも鑑み、正確に記憶していて欲しいとの意味で、単純再生法を選択している。
2−�B 再認形式(多肢選択法)
美術への関心・意欲・態度/鑑賞の能力 評価規準ア−�@、イ
  2 �@�Aと同じねらいでの設問である。所蔵美術館の名は作家・作品名より重要度が低いと判断し、再認形式である多肢選択法を用いた。
2−�C 論述形式(短文型) 鑑賞の能力 評価規準イ−�@�A
  授業と同じ対象を用いて対話型集団鑑賞で行った内容を、定期考査上に再現したもので、画面からの情報で自己の解釈を補足していく力の査定を意図した設問である。大勢の前で発言することに抵抗があり、なかなか自分の意見を表現できない生徒でも、期末考査の設問として課されることによって、上記のような力を発揮する機会とできる点でも有効であろう。
3 論述形式(短文型) 鑑賞の能力 評価規準イ−�@�A
  初出の対象を用い、授業で行った鑑賞方法が本当に身についているか否かを査定するための設問である。問題場面テストのバリエーションで、いわば初出応用テストとでも言うべき形式である。長文解答型の問題として作問することも考えたが、今回は対話型集団鑑賞がはじめてである点を考慮して短文で簡潔に答えるものとした。基本的に2−�Cと同じ意図を持った設問である。
使用図版 : レオナルド・ダ・ビンチ
『岩窟の聖母』ナショナル・ギャラリー版1495-1508年(部分)

期末考査模範解答






評価資料の実例(宿題レポート)
 ここで、実例を示しつつ宿題レポートでの評価について振り返ってみたい。
 まず、評価基準「十分満足できる」に達していると判断できる事例として、�宸Pおよび�宸Qがあげられる。
 �宸Pの事例では、作家ベラスケスや作品自体の解説についてかなり詳細なことまで調べられており、内容的にも充実したものになっている。また、ラス・メニーナスの部分複写を添付し記述内容を補足するなど高い主体性を示しており、意欲・態度の面からも申し分ない。感想からも、美術批評の活動を十分楽しめた様子がうかがえて好感が持てる。
 �宸Qの事例でも同様で、詳細な解説を記述しており内容的にも充実している。
 これ以外の「十分満足できる」と判断した事例として、このワークシートに書ききれずレポート用紙3枚にわたる詳細な解説を添付してきた男子生徒もいたことを書き加えておく。
 次に、「おおむね満足できる」が適切であると判断した事例として、�宸Rおよび�宸Sをあげておく。どちらの事例でも、作家や作品について自ら調べた結果がきちんと記録されており、感想などにもまじめに取り組めている。ただし内容的にやや薄い部分もあり、この段階が妥当であろう。
 一方、ほとんど調べることができずに、論述部分を空欄のまま提出した生徒も少数(学級に2〜4人程度)ながら存在し、その場合は「努力を要する」の評価とした。この評価の生徒については、第2時の授業において十分配慮し、しっかりと内容を押さえられたか確認する必要があった。
 生徒が自主的な調べ学習をする場合のソースとして圧倒的に多かったのは、インターネットによる検索であった。予想以上に生徒にとってインターネットやパソコンなどのITは身近なものであるようである。ただし、ソースとなるサイトが限られているため、内容的に重複したものが多かったことが残念であった。




評価資料の実例(期末考査の結果)
 期末考査の結果を軸に、実施した問題について考えてみたい。
 まず、問1では、思ったより正答率が低い結果となった。これは、想定した教室での対話型集団鑑賞の場面以外に、美術館などでのギャラリートークもしくは対話なしの鑑賞を意識した生徒がいたためである。問題文の出し方に補足説明が必要であったと感じている。
 次に、問2�@〜�Bの客観形式の問題では、71.09%と正答率が高くなった。問題形式の差もあるが、知識・理解の分野での調べ学習もかなり有効であることが見て取れる。表には現れていないが、宿題レポートにしっかり取り組んだものほど正答率が高くなっていた点も見逃せない。一方、レポートが芳しくなかったものについてはここでも高得点が残せず、授業内容の定着を促進する手だてを一層充実させることが必要であると感じた。
 問2�C−論述の設問でも、高い正答率が残せており、授業において行った対話型鑑賞は、描写をベースにしての情報の抽出と解釈という点で生徒にとって印象深かったように思える。美術批評における基本的姿勢について、経験を通して理解が進んだように感じられる。
 最後に、問3の初出応用テストでは、問2�Cのような形で描写に即した論評を期待したが、実際は必要最小限の記述になっている場合が多く、少々物足りないものになった。また、「どのような人物」「何をしている」の要素のうちどちらかが落ちる場合も多く見受けられた。このことより、問2�Cでの美術批評の姿勢は、対象を変えた場合もきちんと機能しているとは言い難く、まだ完全に定着するにいたっていないことを示唆する結果となったと考えている。

おわりに
 今回のプロジェクトにおいて、私は評価の側面に注目して鑑賞の授業を見つめ直してみた。その過程を通して言えることは、評価ツールや評価方法の研究開発が、結果として題材の多様化、指導方法の選択幅拡大、目標設定の柔軟性向上につながりうると考えられることである。そしてそれは、様々な評価ツールを効果的に組み合わせ、いかに多面的な評価を形作るかという点に加えて、定期考査をはじめとするテスト法による評価をどのように改善していくかということにかかっているように思える。
 現在、鑑賞領域においては「定期考査」が主要な評価ツールの一つとして位置づけられている。よって、「テスト=知識・理解」という認識と、事実そのような内容で実施されている定期考査から脱皮を図ることは、現時点での鑑賞授業の有り様を転換させる上で非常に有効であると言えよう。今回提案した関心・意欲・態度を査定する設問や、授業内容が定着したかどうかみる初出応用テスト等なども、単なる知識偏重型の評価ツールから、様々な幅広い観点に対応した出題をねらったものである。
これは、鑑賞領域のみならず、表現領域でも共通して言えることであろう。
 そして、最も必要なことは、鑑賞の授業において身に付けさせようとしているのはどのような力なのかを明確にすることであろう。目標があってこその評価である。そしてこの、目標−評価の双方における指導者の意識改革が、美術科の改革における最重点項目の一つであると言えるのではないだろうか。