対話を通して想像力豊かに作品と関わる鑑賞学習
〜『光る絵のなぞを探ろう』(小5)の実践より〜

愛知県豊明市立豊明小学校 小崎 真

私の鑑賞観
 まず,本研究テーマに関わる3つの視点である「子どもの想像力」「仲間との対話」「資料提示」について説明したい。
●作品を見つめる子どもの想像力
 『ラス・メニーナス』を見たある児童が「いちばん左の女の子(侍女)がとなりの女の子(王女)に『だいじょうぶ?』(と言っている)」「きいろいドレスをはいている子(王女)は目が見えないのかもしれない」と答えた。この児童は侍女が王女に気を遣っている様子を読み取っていた。実は,この児童の母親が障害のある方であった。
美術の知識を持っていない子どもたちは,作品の要素と生活経験を結びつけ,独自の鋭い視点で作品を読み解いていく。本研究では,子どもたちが作品に向ける「純粋なまなざし」を中心に据え,想像力豊かに鑑賞する授業を目指すものとする。
●仲間との対話から作品を読み解く
 子どもたちは1人ひとり,知識や生活体験が違うため,作品の見方や感じ方は当然異なる。その見方や感じ方を伝え合うことで,仲間の感じ方の違いや良さに気づき,それを受け入れながら作品を読み解いていく。これが仲間との対話であり,いわゆる「対話型の鑑賞」と呼ばれる方法である。
対話型の授業では,子どもたちが感じ取った内容を「正解」としてみんなで受け止める。そのため自信を持って発言ができ,仲間と共に想像する楽しさやすばらしさを感じ取っていく。
作品に関する資料で考えを揺さぶる
 実際,子どもたちのユニークな見方で作品を読み解く授業はおもしろい。なぜなら,とても大人では思いつかないような突拍子もない考えが出てくるからである。しかし,子どもたちの想像力だけではなかなか鑑賞の内容が深まっていかない。

● 資料提示
 そこで必要となるのが「作品に関する資料」である。子どもたちの作品の見方や考え方を広げ深めるために,資料は必要不可欠である。ここで言う資料とは,「題名」「作者名」「関連作品」など作品に関わる全ての情報を指す。授業の流れに沿ってこの情報を効果的に提示することで,子どもの考えを揺さぶる。ただし,ここでの資料提示は「正しい知識の伝達」をねらうのではなく,あくまでも「子どもたちの想像力を広げる手だて」と考えたい。そのために,「どの資料を,何のために,いつ提示するか」について充分検討する必要がある。

実践の概要〜『光る絵のなぞを探ろう』(小5)
(1)授業設定の意図
 今回取り上げる『ラス・メニーナス』は,「表現がリアル」「人物が多い」などの要素があるため,子どもたちが様々な角度から具体的に内容を見つけ,意見を出すことができる作品と言える。
本授業では,数名の児童が気づいた「1つだけ光る絵がある」という意見を焦点化することにした。「国王と王妃,そして作者(ベラスケス)が,描かれた人々を温かく見守っている」ことに気づかせ,当初この作品につけられた題名でもある『家族』というテーマを浮き上がらせたいと考えた。

(2)私の授業実践の特色
 私の授業は,以下の3段階を基本としている。
●出会いの段階(内容の洗い出し)
 出会いの段階では,作品を印刷したものを個々に配布し,「この絵から見つけたことや感じたことや疑問に思ったことを10個以上書きましょう」と投げかけ,内容の洗い出しを行わせる。この後,書き出された内容の分析し,学級の傾向や核となる考えをつかみ,題材の流れと授業展開を考える。
●共有化の段階(対話型の鑑賞)
 共有化の段階では,作品から気がついたことを自由に発言させた後,「これはどうなっていると思う?」と投げかけを行ったり,資料を提示して揺さぶりをかけたりする。今回はベラスケスが描いた国王と王妃の肖像画を資料として提示した。
●主体化の段階(創造的な表現活動へ)
 主体化の段階では,個々に作品から感じ取った内容を色や形で表現させたり,言葉で表現させたりする。今回は「自由にお話を考えよう」と投げかけ,アートゲーム的に「お話づくり」を行った。

(3)学習目標と評価基準(表1)

学習目標
評価基準
A
造形への関心・意欲・態度
○積極的に作品に関わり,内容を読み取ろうとすることができる。
作品から多くの要素を見つけ出し,意欲的に作品の内容を読み取ろうとすることができている。
作品に描かれた要素を見つけ出し,自分なりの見方で作品について考えようとすることができている。
作品に描かれたものを読み取ろうとせず,作品への関心が低い。
鑑賞の能力
○意欲的に発言したり,仲間の意見を聞いたりして,作品の読み取りを深めることができる。
作品から感じ取ったことを発言したり,聞いたりして,作品の読み取りを深めることができている。 作品から感じたことを発言したり,聞いたりして,自分なりの見方で作品を読み取ることができている。
作品から感じとことを発言したり,聞いたりすることができず,作品から何も読み取ることができない。
発想や構想の能力
○想像力豊かにお話づくりができる。
作品から感じ取ったことをもとに,想像力豊かに話を考え出すことができている。
作品から感じ取ったことをもとに,自分なりの発想で話を考えることができる。
作品から感じ取ったことをもとにして,話を考えることができない。


(4)学習指導計画(表2)

学習の段階
学 習 内 容
@出会いの段階(洗い出し)
作品から見つけたことや感じたことをたくさん書き出そう(1時間)
A共有化の段階(対話型の鑑賞)
作品から見つけたことや感じたことから、内容について話し合おう(1時間)
B主体化の段階(お話づくり)
話し合った内容をもとにお話をつくろう
(1時間)

(5)授業の実際
支援のポイント
 子どもたちは基本的におしゃべりが好きである。しかし授業中となるとなかなか発言できない。これは,発言に自信を持てないことが原因の1つと考えられる。そこで,子どもたちが書いたワークシートに「その通りだね」と朱書きを入れ,「感じたことに間違いはないんだよ」と子どもの考えを支える。さらに発言内容を1つ1つ丁寧に板書し,発言に対しては「なるほど」「確かに」とうなずきながら受け入れるようにする。すると,他の子どもたちも仲間の意見に「なるほど」と声を出すようになり,発言した児童は「仲間に認められた」という気持ちが高まる。

児童の反応
 共有化の授業では,始めに子どもたちに気がついたことを発言させた。一通り意見が出たところで,「光る絵」について焦点を当てた。(資料1)
T:教師 S:児童  
T ここに人は何人いる?
S 9人。
S 人間だけ?人間だけだったら9人。
S でも絵の中の人がいる。
T (後ろの光っている絵に)骸骨2ついるんだけど。2人かな?光っている絵ってこれのことだよね。これが絵じゃないと思う人。
S 鏡だと思う。よく学校の怪談ででてくるゆうれい がうつっている。
T 絵なのか,鏡なのかって大切だね。人数がちがってく ることない?
S 窓かもしれない。(「ああ」)
S 怪談の意見に反対だけど,空想上のことならない んだけど,時代から考えてみると18世紀ぐらいで, トイレの花子さんとかじゃなくて絵。
S ゆうれいはいるから。
S 写真だと思う。(「私もそう思った」)
S 絵がうつっていると思う。キャンバスの絵がうつ っている。
T 鏡だけど,絵がうつっている。
S 絵がうつっている鏡なら反対になる。(「別に反対でもいいじゃん」)
S さっき外国って言ったじゃん,外国じゃないかも しれないじゃん。自分の好きなように考えて,別に決まってないからその絵を描いた人の空想だから,骸骨とかあっても全然平気。
S 2人の意見に反対で,キャンバスの絵が移ってい るなら,男の人もうつっているはずだし,(「確かに」) 絵だと思う。
S 他にもいっぱい絵がかざってあるのに,この絵だ けが光っているのから鏡だと思う。窓がうつってい るかもしれない。いろんな考えがある。
S 絵みたいのが鏡なら,そんなにうまく収まるはず がない。
S 鏡に絵がかいてあるのかも。
(後略)

※( )内の「 」は児童のつぶやき
資料1 『光る絵』について話し合う場面の授業記録

 本授業では,「絵か,鏡か,窓か」という議論を以上の程度で抑えたが,この認識のズレは子どもたちの考えを揺さぶることができる視点なので,内容をより深く見つめさせるために掘り下げていくのもよい。ただし,ディベートではないので,自分の主張に固執しすぎないようにさせたい。
 次に,『光る絵』の中の人物に目を向けさせるために,ベラスケスが描いた王と王妃の肖像画を資料として提示した。(資料2)
T:教師 S:児童
T 実はこの2人をもう少し大きくかいた絵があるんだ。  見たい?(「見たい!見たい!」多数)
T じゃあ,まず男の人はどんな人かっていうと・・・ (王の肖像画を提示)(「あ,似てる!」「おじいちゃん!」「ご先祖!」)
T じゃあ,さっき出てきた骸骨は・・・(王妃の肖像画を提 示)(「骸骨!」「おばけ!」)
T この2人と他の人はどんな関係だと思う?
S だれだかわかんない。
S 恋人同士。
S おじいちゃんとおばあちゃん。
S たまたまかいた人。
S ともだち。
S その家族の親戚の人。
S 赤の他人。
S 昔ここに住んでいた人。
S ゆうれい。
S この家にいて引っ越しちゃった人かご先祖様。
S 写真がなかったから絵で表した。
S ライバル。(「何のライバル?」)
S お父さん,お母さん。
S 同じ貴族。 (後略)
※( )内の「 」は児童のつぶやき
資料2 王と王妃の肖像画を提示した場面の授業記録


 ここでも,肖像画は提示するだけにして,詳しく説明は行わなかった。その代わり,子どもたちには思ったことをそのまま語らせるようにした。
 以下は,授業後の感想である。(資料3)

○今日はみんなで絵を見て,本当にわかったとか,みわすれた所までみんなが言ってくれて,すごく楽しかったです。あと自分でもたくさん意見が言えました。かがみ(絵)の中の人までどんな人かわかってよかったです。でも中の人が全然ちがってびっくりしました。
○今日,絵の授業をして,絵について深く考えるのは楽しいなあと思いました。友達の意見を聞いて「なるほど」と思ったこともあったし,自分でもいい意見が言えたなあと思いました。でも,はじめてこの絵を見てから「今からパーティーがはじまるみたい」という考えは変わっていません。これからもまたいろいろな絵を見ることができたらいいなと思います。

資料3 授業後の児童の感想より

 この2つの感想から「作品の内容を深く考えよう」「発言しよう」「仲間の考えを受け入れよう」という意識が高まったことがわかる。
 次に,主体化の段階で行ったお話づくりの作品を紹介したい。

 昔むかし,私たちが生まれるずっと前の話です。そこには5人のむすめ達が仲良く幸せにくらしていました。そのむすめ達のお父さんは画家でその絵はとても有名で世界に広がりとても金持ちでした。けどお母さんは5年前になくなってしまいました。とてもやさしいお母さんだと世間にも広まっています。むすめ達はお母さんが大好きです。
 ある日のことです。むすめ達が歩いていると,お父さんがいました。けどいつものお父さんではありませんでした。なぜかというと,お父さんはこうもりのようなつばさを持ち,きばや,やりを持っていました。そう,お父さんはまじょの手下だったようです。むすめ達はそれを見てがっかりしました。
 次の日のことです。お父さんはむすめ達をよびました。なんと,むすめ達の絵をかいてプレゼントしたのです。むすめ達は思いました。
「こんなにやさしいお父さんはこの世にたった一人」
「まじょの手下でも私のお父さん大好き!」
 こうしてむすめ達はお父さんといつまでも幸せにくらしました。 

 この話の中でベラスケスはむすめ達の父親となっているが,他にも子どもたちは,描かれた人物を結びつけ,「家族の話」「王様の話」「パーティーの話」などを考えた。


成果と課題
 子どもたちは当初この作品から「人形みたい」「気味が悪い」と感じていたが,発言内容,感想,お話から見ると,「人間的な温かさ」や「不思議さ」に気づいていることが分かる。また,今回の授業で,仲間の考えを認める「つぶやき」が見られたが,対話型の授業が成り立つためには,「受け入れ,認め合う心」が必要不可欠であることを実感した。
 課題としては,「授業の焦点をどこに置くか」ということが挙げられる。例えば,最初に紹介した侍女と王女の関係や,あるいはベラスケスと王の関係に気づいている子がいれば,そこに焦点を合わせ話し合うことができる。また,作りあげたお話の世界を絵で表現することも可能であろう。

(6)評価の問題
 前記の評価基準に合わせて,発言,洗い出しのワークシート,授業後の感想,お話づくりの作品から評価した。また,今回のように対話型の授業を行う場合,発言内容を分析して評価する必要がある。そのための資料として,板書を写真で残したり,ビデオで授業を録画しておいたりしておくことは,授業実践の分析も含め,特に重要である。


(7)参考文献,情報収集の方法
『人はなぜ傑作に夢中になるの』アメリア・アレナス著,淡光社1999
『絵画の見かた』ケネス・クラーク著,白水社2003
『みる かんがえる はなす』アメリア・アレナス著,淡光社2001
『まなざしの共有 アメリア・アレナスの鑑賞教育に学ぶ』上野行一監修,淡光社2001
『絵画の見方 美的経験の認知発達』マイケル・J・パーソンズ著,法政大学出版局1996