○○から見たラスメニーナス  〜ラス・メニーナスとは何か〜

大分大学教育福祉科学部附属中学校
木 村 典 之

●私の鑑賞観
 鑑賞とは,「みる」ことを楽しむことだと思います。「『みる』ことを楽しむ」とは,わくわくしたり,どきどきするなど,感情にゆらぎが生まれることです。対象物は,美術作品から身近な文房具まで,何でもよいと思います。「これっていいよね」「すごくきれいだと思わない」と友だち同士で会話するような感覚で「みる」ことが大切だと思っています。
 「みる」ことを楽しむためには,次の二つのことが重要だとを考えています。ひとつは,学習者が,「みる」対象から,なんらかの価値ある情報を得られるかどうかということです。そこには見る人の年齢(発達段階)や価値観や美意識が大きく関係してくると思います。
もうひとつは,グループなど複数で「みる」場面を設定することです。多様な価値観に出会わせることが,学習者の心のゆらぎを生み,解釈を豊かにし,「みる」こと深めると考えられるからです。

●実践の概要
(1)授業設定の意図
 漠然と「みる」から分析的に「みる」へ,さらに,自分の解釈を加えて「みる」,画中の人物の立場から「みる」,画中のある地点から「みる」という段階を経ることで,解釈を広げさせます。 最終的には,多様な解釈を踏まえて「みる」段階へと見方を質的に変容させていくことを意図しています。

(2)学習目標と評価基準
 絵の要素を分析的に見たり,作品を成立させている仕組みを考えたりすることによって,ラス・メニーナスの作品解釈を深めることができる。
�@作品を成立させている仕組みに興味を持つことができる。(関心・意欲・態度)
�A描写された人物や部屋の様子を手がかりに,描かれた絵画空間の枠外をイメージできる。                (発想・構想の能力)
�B画中の人物の視点から,ラス・メニーナスをスケッチできる。(創造的技能)
�C自分の解釈を語ることができる。(鑑賞の能力)

(4)学習指導計画(総時数5時間)
  《対象学年:3年》
�@ラス・メニーナスとは何か1 (課題の設定)
�A解釈の交流1 (分析と解釈)
�B○○から見たラス・メニーナス(視点の転換)
�C解釈の交流(主張と根拠)
�Dラス・メニーナスとは何か2(結論) 

(5)授業の実際
�@ラス・メニーナスとは何か1 (課題の設定)
 ラス・メニーナスを紹介する際,部分紹介法をとり,全体像を想像させたりしながら学習動機を形成しました。次に,写真資料を1人に1部(コピー)を手渡し,細部まで見ていけるようにしました。「暗い」「不気味」「人形みたい」「ごちゃごちゃしている」「写真みたい」などの印象が発表されました。次に疑問カードを配布し記入させました。疑問カードは,交流ボードに掲示させ,お互いの疑問点を確かめ合いました。そして,この疑問点に説得力を持って答えることを学習課題として,探求テーマ「ラス・メニーナスとは何か」を提示しました。
�A 解釈の交流1   (分析と解釈) 
 4人1組の班を構成し,班員の提出した疑問を解決するためのテーマを設定させました。「ベラスケスは見た!」「人々は何をしているのか?」「目・犬・絵」「人々の前には何があるの?」などのテーマが設定されました。次に,テーマに対して4人がそれぞれ解釈を加えました。例えば,キャンバスには何が書かれているのか?」をテーマにした班では,解釈A「正面に実は鏡があって,それをあの巨大な絵にかいている。絵の中にいる画家が,この絵を描いている。」,解釈B「奥の鏡に映っている男女がこちら側にいて,その二人を描いている」,解釈C「画家がもっているパレットの色的に見て,中央の少女を描いていると思う。」,解釈D「実はそこには画家がいて,絵の中の画家は,その描いている画家を書き,描かれている画家はラス・メニーナスを描いている」という4通りの解釈がなされました。
�B○○から見たラス・メニーナス(視点の転換)
画中の人物もしくは,画中のある地点からみたラス・メニーナスを,想像力を働かせならがスケッチさせました。画家の視点,マルガリータの視点,女官の視点,ホセの視点,犬の視点,扉の向こう側からの視点,窓の外からの視点など,さま
ざまな角度からのスケッチが出来上がりました。


�C解釈2(主張と根拠)
4人1組の班を作り,前時に行ったスケッチを見せながら自分の解釈を述べます。まずは班内で意見交換し,最も説得力のある説を全体の場に提出するようにしました。
 解釈の中で最も関心が集まったのは,「手前に何があるか」ということでした。「手前は窓とテラスがあり,その外に民衆がいるのではないか」,「本当は手前に絵描きがいて,絵の中の画家は後で付け足したのではないか」,「実は階段のところにいる男は鏡に映っている姿であり,実際は手前にいるのではないか」,「もし,奥の光った絵が鏡だとすると,手前にはその映った男女がいることになる」などの解釈が提出されました。鏡に関しては,左右逆転することに気づいた学習者が合わせ鏡派へと発展したり,画家付けたし派へと転身したりしました。

�Dラス・メニーナスとは何か2(結論)
解釈1と解釈2を材料に自分なりの結論を考えさせました。「迷路」「時代の風刺画」「社会構成」「ある日の金持ちの家」「からくり」「期待と不安」「家族の大切さ」「キャンバスには収まらない空間」「特別な日の朝」などが発表されました。
 次に,ピカソの《ラス・メニーナス》のを紹介しました。巨大なベラスケスや図式化されたバルボラ,象徴的に表されたホセ・ニヒトに注目が集まりました。
 最後にもう一度,ベラスケスのラス・メニーナスをじっくり見る時間を設定し,感想を書かせました。

(6)評価
 本実践の評価は,交流活動における相互評価が中心になります。この場合の相互評価は,次なる学習動機を生み出すための形成的な評価です。したがって,肯定的な相互評価がなされるよう指導することが大切になると思います。
 また,「私の解釈カード」,「○○から見たラス・メニーナスカード」,「ふり返りカード」の3枚の学習カードを,授業後に丁寧に見とっていきます。一人ひとりの解釈とその考えに至った道筋を評価するためです。

(7)成果と課題
 「はじめの印象と比べて,見方が変わった。」「友だちの意見に納得する部分もあり,楽しめた。」「もっとラス・メニーナスのことが知りたくなった。」などの感想に見られるように,見方に変容がった点と興味関心の高まりが見られた点が成果です。課題は,スケッチに時間がかかる点です。用紙を小さくするなどして対応した方がよいかもしれません。

(8)参考文献
・「世界美術大全集 第16巻 バロック�氈@〜ベラスケスとマドリード派〜」           大高保二郎著,1994年,小学館
・「鏡と皮膚−芸術のミュトロギア−」谷川渥著,1994年,ポーラ文化研究所
・「スペイン宮廷物語 王女マルガリータへの旅」  西川和子著,1998年,彩流社